第二十九話
ディアドラの部屋を出て自分の部屋に戻ろうとした俺はある事を思い出し、ブリギッテの工房に向かう。
工房には俺のヴァルスロットを打ち直す為に女神達が集まってお互い頭を悩ませていた。
「よお、ブリギッテ。 その様子だと何か問題が出た見たいだな」
「グンディール!? 歩き回って大丈夫なの!!」
「ああ、普通にしてる分には問題無い……。 ただ、ヴァルスロットの事で思い出した事が合ってな。 それを注意しとこうと思って」
「注意?」
首を傾げるブリギッテ。
「ヴァルスロットを打ち直す素材、碎けたヴァルスロットの破片以外何を使うつもりだ?」
ヴァルスロットの碎けた破片は俺が呼び寄せ、残らず回収してブリギッテに渡しておいた。
これは絶対に必要な素材の核だからな。
それと素材を集めるのに外の世界や他の神域に移動するのに必要になると思って幾つか通行許可証を渡してある。
「えーと、ギリシアにあるオリハルコンとアースガルドの世界樹の枝だよ。 世界樹の枝はウルド、スクルド、ベルダンディーの交渉に内のノルニル達とトネリコの木の精霊のメリアスさんに行ってもらって何とか手に入りそうなんだけど、問題はオリハルコンだよ。 ソフィア様達がギリシアに向かったんだけど、炎と鍛冶の神ヘパイストが持ってて、そのヘパイストがパンデイア様を嫁に寄越せって駄々こねてるんだって。 それで困ってるんだよ……」
俺に困り顔で訴えるブリギッテ。
「そうか……。 まあ、確かにパンデイアはすっげえ美人だからなあ……。 じゃなくて、俺の用事もそのオリハルコンの事なんだ。 ソフィア達を引き上げさせろ」
「え! それじゃあオリハルコンが手に入らないよ!!」
「ヴァルスロットの素材にオリハルコンは使えん。 昔、試してみたが隕鉄と反発して融合しなかったんだ。 どうやら相性が極めて悪いらしい。 せめて使うならミスリルぐらいにしとけ」
「でも……っ! それじゃあ、ヴァルスロットが不完全な物になっちゃうよう……」
半泣き状態のブリギッテ。
仕方がないので俺はとあるとっておきを出す事にする。
本来なら未来永劫使うどころか見たくも無かったんだが……。 背に腹は代えられんか……。
「神代の時代に手に入れた神の金属を俺が持ってる。 それを使え」
「そんなのがあったの!?」
「ああ、正確には神の金属を精錬、加工した玉鋼だがな……。 あれなら十分な素材になるはずだ……」
うっ! アレを手に入れた時の事を思い出すと自己嫌悪に陥る! とっととブリギッテに渡してしまおう!
「どうしたの、グンディール? また調子が悪くなったの?」
俺の顔を覗き込み、俺の顔色が悪いのを心配するブリギッテ。
「あ、いや、何でも無い」
俺達は部屋に戻り、部屋の隅の床にある隠し階段に通じる床板を開ける。
「グンディールの部屋にこんなとこがあったなんて……」
「此処は俺の秘蔵のお宝を隠しておく為に使っていたんだがな……今はさっき言った玉鋼しか置いてない」
階段を降りると広い地下室にぽつんと宝箱が一つ置いてあるだけだ。
あの中に玉鋼を保管してある。
玉鋼を寄越した女神の事を思い出したくなくて、俺の目につかないこの地下室に放り込んだんだが。
まさかあの女の予言が当たるとは……。 再会する日も近いという事か? ……それ、凄くヤダな。
などと取り留めの無い事を考えながら宝箱を開ける。
中には緋色と青色の二種類の玉鋼を入れてある。
「これが神の玉鋼……オリハルコンと同じ、まるで生きてるような感じがする……」
「実際に生きてるらしいがな。 緋色の方が緋緋色金――軽くて硬い。 青い方が青生生魂――重くて柔らかい。 この二つとヴァルスロットの穂先の隕鉄とを神気の炎で溶かす事で融合して思うように加工できる筈――と、これをくれた奴からそう聞いた。 だが、実際に試さないとわからんがな……」
「ううん! これ、オリハルコンより凄いよ! 僕の思っていた以上のものが創れるよ!!」
「そうか……。 良かった。 俺は少し疲れたから休むよ。 ブリギッテ、後は頼んだ」
「うん! 任せて!」
ブリギッテは二つの玉鋼を大事に抱えて俺の部屋から出て行った。
さて、俺はもう少し休ませてもらうか……。
自分のベッドで休もうとしたら掛け布団が盛り上がってる。
布団の中を覗き込むといつの間にやら妹分の女神アシが潜り込んでいた。
いつの間に! ……仕方が無い。 このまま寝るか……。
俺はアシをベッドの隅に追いやり、自分が入る空間を確保、其処に体を滑り込ませ、疲れた体を横たえた。




