第二十八話
俺は今、自分の部屋のベッドに体を横たえてる。
暫くはバルスロットが碎けた時のフィードバックの所為で体中痛かったが今は大分マシになった。
「暇だ……」
そう、体調が良くなってきたら凄く暇を持て余すようになったのだ。
かと言って、そこら辺をうろちょろしてるとエイル達に怒られる。
それに今、ブリギッテ達が俺のヴァルスロットの為に色々尽力してくれている。
その俺が邪魔しちゃあ悪いよなあ……。 でも、暇なんだよなあ……。
などと思考をループさせていると不意にある事を思い出す。
しまった! そう言えば彼女に会ってなかった! 本当なら記憶が戻ったら真っ先に会いに行かなきゃならないのに……。 ……今頃、待ちくたびれてるかな?
俺はまだ少し痛む体に鞭打ち、とある女神の部屋に向かう。
誰にも見つからないよう通路を慎重に進む。
そして目的の部屋に辿り着き扉をノックする。
「はい。 どなたでしょうか?」
「俺、シンジ――グンディールだ」
「!? グンディール様!!」
部屋の中で扉に駆け寄る足音がしてその直後、扉が開かれれる。
薄く紫掛かった銀髪に紫の瞳、白磁の肌の美貌の女性が姿を見せる。
「久しぶり、ディアドラ……」
「グンディール様……」
デイアドラは両手を口に当て俺の訪問に驚いていた。
だが俺の体調の事を思い出してか直ぐに自分の部屋に俺を招き入れてくれ、自室のベッドに上半身を起こした状態で寝かせてくれる。
「グンディール様、余り御無理をなされてはいけませんよ……」
俺の事を気遣ってくれながら、ディアドラはハーブティーを入れてくれる。
ハーブティーが入ったティーカップ受け取り一口啜る。 相変わらず美味いな……。 そして、とても懐かしい味だ……。
「いや、永久の幻想島に来てディアドラに会ってないなと思いだして……。 体調も少しづつ戻ってきたから会いに来たんだよ」
彼女、ディアドラは生まれてきた時から不遇の人生を送ってきた。
彼女の名前の由来も災いと悲しみを招く者、危険という意味だ。
不吉な予言にアルスター王のコノール・マック・ネッサが彼女を助け、自らが育てて、後に妻にする事を申し出て引き取り、砦に隔離されていた。
俺は偶然にも彼女と出会い、退屈していたディアドラの話し相手になってやってたんだ。
美の女神も嫉妬する程に美しく成長した彼女だが、ある日、彼女との密会がバレて俺はコノール王に捕らえられた。
その後、何とかディアドラと一緒に逃げたが、罠を張って襲ってきたコノール王と同盟を組んでいたイーガン王を俺が返り討ちにし、更にはコノール王をヴァルスロットで打ち倒して無事ディアドラを助け出して永久の幻想島に導いた。
永久の幻想島の神々の祝福を受けて不老不死の体を手に入れたディアドラは幸運と幸福を掴む女神となる。
そして後に、ディアドラの名はこの島では幸運と喜びを招く者、幸福という意味に転じた。
「それと――あの約束はちゃんと守るから……。 その事を伝えに来たんだ……」
俺はディアドラに穏やかな微笑みを向ける。
”約束”――それは俺が転生前に交わしたもの。
俺の転生の理由は表向き『一度転生を経験してみたかったのと、剣の権能が手に入るかもと思って』と言う事にしておいたが、本当の理由は俺に好意を寄せてくれている女神達の気持ちを受け止める心の準備をする時間が欲しかったからだ。
……まあ、我ながら情けない理由ではあるが、しかし人数が人数なんで覚悟を決めるにはそれぐらいの時間は欲しかったんだよ!
ちなみに、この事実を知るのはディアドラの他にサーガ、アリアンロッド、エレシュキガル、ティアマトのこの永久の幻想島を管理してくれている四人の女神達だけだ。
ディアドラはクスリと微苦笑して俺に近づいてくる。
「一度もグンディール様を疑った事は御座いません。 その約束は果たして頂けると今も信じておりますから……」
「そうか……」
ディアドラの唇が俺の唇にゆっくりと近づき重なり合い、俺とディアドラはしばし時を忘れて抱擁し合う。




