第十五話
俺は今現在、神々が暮らす屋敷に滞在していた。 屋敷というよりも、学校や付属の寮に住んでいる感覚に近いかな?
まあ、寮住まいなんってしたこと無いんだけど……。
俺は昨日、アンギティアに教えてもらったブリギッド三姉妹の三女、ブリギッテに会いに彼女の専用の工房に向かっていた。
彼女の工房らしき部屋に辿り着く。
鍛冶工房らしく朝から賑やかに金属を叩く鎚の音が響いてくる。
俺は扉を普段よりも強めにノックしてブリギッテの名を呼ぶ。
「ブリギッテさん! シンジ……グンディールですけどちょっといいですか?」
ドンガラガッシャーン! ガラガラ……。
『キャッ! いててて……』
工房の部屋の中から何かをひっくり返した様な音と、女性の小さな悲鳴と痛がる声が聞こえた。 大丈夫なのか……?
すると、直ぐにドアが少しずつ開いて、中から赤味掛かった髪で俺と同年代位の女の子が、髪の色と同じ赤味掛かった瞳を俺に向けていた。
「グ、ンディール?」
「皆からはそう呼ばれてるけど、今の名前はシンジなんでそっちで呼んでくれた方が俺としてはいいな……」
女の子は俺の事を確認すると勢い良く扉を開く。
「うおっと! どしたの!?」
「ブリード姉とブリーイッド姉を直ぐに呼んでくるから! ちょっと待ってて!!」
ブリギッテは脱兎の如く何処かに行ってしまった。
その言葉通り、ブリギッテは二人の女の子を連れてきた。
年齢は俺とブリギッテと同じ位だ。
「グ、グンディール様! 本当にいらしてくれたなんて……」
と、青味掛かった女の子が俺を見て感動に打ち震え、
「……グンディール様……再び会う事が出来て嬉しい」
と、黄味掛かった女の子が瞳に涙を貯めて喜びを噛み締めている。
「えーと、ごめん……。 俺、グンディールの記憶が無いから君達が誰なのか正直わからない……」
俺は彼女達に頭を下げて詫びた。
「そうだったね……。 そうだ! 工房の前じゃ何だから中に入って! 入って! ちょ~と、散らかってるけど気にないで!」
俺はブリギッテに半ば強引に背中を押され、工房部屋に入った。
工房部屋は色んな道具類や鍛冶に使用するであろう炉や窯等、設置されていた。
ブリギッテは冷蔵庫のの様な長方形の大きな箱の中から飲み物を出してきて、コップに注いで此処に居る皆に配る。
「記憶が無いとなると自己紹介が必要だね! 僕はブリギッテ! 鍛冶や工芸、建築を司る女神だよ! 僕は末の妹なんだ!」
「……私はブリーイッド。 ……治療を司る女神」
「わたくしはブリードと言います。 ブリギット三姉妹の長女で占いや予言、詩や学問を司る女神ですわ」
と、三女ブリギッテ、次女ブリーイッド、長女ブリードの順で紹介された。
わかりやすく言うと、長女が青、次女が黄、三女が赤だ。 うん。 この方が覚えやすい。
「でも、やっと奥さんの僕達に会いに来てくれたと思ったのに……残念だなあ~」
ブリギッテは肩を落とす。
てっ! えっ、奥さん! 何それ!!
「え~と……奥さんて?」
「僕達、グンディールと結婚してるんだよ!」
「何だってーーーーーーっ! ちょ、ちょっ! 結婚て、どゆ事!!」
俺は慌てふためき動揺し、三人に事情を問うた。
何でも俺がアイルランドにふらりと立ち寄った時の事。
その時、彼女達の父親でダーナ神族のダグザさんに気に入られ、彼女達を嫁に貰ったそうだ……ってのが表の話し。
実際は彼女達ブリギット三姉妹は、ブレスという当時、ダーナ神族の王に言い寄られていて困っていた。
そこで俺が彼女達の夫となる事でブリギット三姉妹を諦めさせ、代わりに似たような名前のブリジット三姉妹を嫁がせたそうだ。
ちなみに、このブリジット三姉妹、容姿は醜く、性格も酷いらしい。
「良かった~! じゃあ、結婚て形だけなんだな!」
「うん、そうだけど。 でも……」
「……私達三姉妹は、グンディール様の事を愛している……だから」
「わたくし達三人、正式にグンディール様の妻になる事を望んでおります。 ですので、どうかわたくし達を娶って下さい!」
くっそ~、またこのパターンか! グンディールの奴、いい加減にしやがれ! これじゃあ、用事を頼めない! あっそうだ!
「君達の好意は嬉しいけど、さっきも言った通り、俺にはグンディールの記憶が無い。 だからこの話は、俺が記憶を取り戻した後に考えるよ……。 それじゃあ駄目かな?」
「……そうですわね。 確かに今のグンディール様にこの話しをするのはずるいですわね。」
「……私はそれでいい」
「僕もいいよー!」
「ありがとう、三人共」
よっしゃ~っ! 何とか試練を潜り抜けたぞっ! 記憶を取り戻した後の事? そんときゃそんときで考えるさっ!
俺はホッとして、ブリギッテから貰った飲み物で喉を潤す。
「処でグンディール、それじゃあ何で僕の所に来たの?」
俺は早速、本題に入る。
ブリギッテに俺の体内に埋め込まれていた小型機械の説明をする。
「ふ~ん。 遠くに居ても判る絡繰ね~」
「発信機と受信機、二つセットになってるんだけど、多分、受信機は俺の幼馴染が持ってると思う」
「確かにこの絡繰から他の神の神力を感じるね。 わかったよ! ちょっと時間は掛かるけど調べてみるよ!」
「ありがとう、ブリギッテ。 助かる」
これでミッションコンプリート! やったぜ俺!
「あっ、そうだグンディール! 報酬は何くれる?」
「報酬?」
「タダ働きはやだなー」
「具体的には?」
「ん!」
ブリギッテは唇を俺に突き出してきた。 おい、まさか……。
「く・ち・づ・け♡」
やっぱりか! でも何で残りの二人も唇を突き出してんだよ!
「……君達は何故?」
「グンディール様、わたくし達につけが溜まっておりますわ♡」
「……だから払って、グンディール様」
俺は三人に気づかれない様、そっと扉の方向に移動する。
「わかった。 それじゃあ……」
「「「ん……♡」」」
「つけでお願いしゃーすっ!」
俺は脱兎のごとく工房の扉から逃げ出した。
それを唖然として見送る三人。
「はっ! グンディールが逃げた!」
「そうそう逃がしませんわよ!」
「……つけは必ず払ってもらう!」
かくして、四人の壮絶な追いかけっこが始まった。




