特区における労働対価とは。
「詩織さん」
吉野管理官の声です。
まさか仕事ができないとは思いませんでした。
『滞納者』の方々はこんな辛い思いを味わいながら生活しているのかと思うと切ないです。
いいえ。いい訳であり、綺麗事です。
私は、そう、私はまともにこなすことのできない、それどころか社会に多大な損害を与えてしまった自分が許せないのです。
初めてだからできなくて仕方ない。
悪気があってそうなったわけじゃないのだから。
仕方ない。
そんなわけないじゃないですか。
あきらかにそんな枠を超えてしまっていたじゃないですか。
いっそきっぱり責めて欲しかったとすら理不尽に考えてしまいます。
課せられる労働義務。
その労働の対価は住宅食事の配給、医療保障、これまで怠ってきた納税、その他の借金の返済にあてられる。
支給される対価は返済金に半分。医療用担保金に一割。一ヶ月分の家賃分の入金が終わるまでは二割は家賃。残りの二割が食費や衣装、遊興費、雑貨雑費として自由に使用可能。
家賃(最低限の食糧配給含む)支払いが終われば最大四割が自由に使うことのできる資金になる。
借金返済に充てるもよし、スキルアップにあてるもよし、非常時の食費貯金に残すもよし。外に出たときに使い方に自信がもてるように。
労働成果に喜びを感じられるように。
それを学ぶための場所がこの『矯正特区』
そこで私はいったい何を学んでいくのでしょうか。
不安なのです。
カードリーダーにカードを通すのが恐ろしい。
私に向く業種を見つけなくてはいけないのです。
借金まみれはイヤなのです。
「詩織さん、泣かないでください。誰だって失敗はあります。昼は少し違うことをしてみましょう」
「違う、ことですか?」
でも、借金の作り方なんて流石に学びたくないです。
「職業訓練斡旋局です」
吉野管理官が優しい笑顔でそう告げます。
それ。
ソレは、最終手段じゃないですか!!
私だって、管理サイドなんです!
本来ならば。
ああ、知っている事実が辛いです。
本来なら特区に入って半年以上生産性のない対象に取られる対策を当たり前に最善策のように仰らないでください。
ちょっと凹みました。