初労働成果
その日の午前中で詩織が『支払った』のは500バオル。
「おかしいです」
「おかしくねーよ。ねーちゃん」
詩織に声をかけているのは引きつった苦笑を浮かべる工場の人事担当者。
半日にも満たない必死の頑張り。
最初、その懸命な姿に人は何故、この少女が滞納者になったのか理解できず、首をねじった。
詩織は愛想も良く、疑う余地もなく一生懸命に作業に従事していた。
ただ、そのできの悪さは、ハンパではなかったためこっちの作業、あっちの作業と単純作業を回した。
ひとつぐらい向いた方向性が見つかるだろうと。
手を抜かず努力したその結果が悪いことは仕方がない。
努力により基本給プラスをしてやりたくとも成果の問題でできないなと思ってた矢先、機材を壊してしまった。もちろん、わざとではなくたまたまだ。
その損害額は500万バオルを下らない。
つまり、この工場は詩織を出禁にしたのだ。
流石に当然と言える。
「もうじきな。吉野管理官がきなさるから、ココより向いた職場、紹介してもらえ。ウチじゃねーちゃんを扱いきれない。すまないな」
ぽんっと肩に手を置かれ、人事担当者は申し訳なさそうに告げる。
詩織にやる気はあるのだ。
無気力ではないのだ。
それは人事担当者や作業説明者にも伝わっていた。
それでも被害総額が大きすぎた。
きっと類似工場にも連絡は行く。
工場系で彼女に仕事を回そうというものはいないであろう。
いくらすべて国営とはいえ、いや、国営だからこそ、巨額すぎる損害は許されないのである。
そしてなぜ詩織が『滞納者』となったのかが理解された。
この子はこんな感じで借金がかさんできたんだろうな。
そんな生温い眼差しにさすがに表情の消えた詩織は考える。
実際の詩織は『滞納者』ではないのだから。
公務員として採用されたエリートのはずなのだ。と。
「ど、どうも私には向いてなかったようですね」
精一杯の強がりに人事担当者は肩に置いた手を離した。
「力になってやれず悪いなぁ。向いた業種が見つかることを祈ってるよ」
しみじみと告げられ、詩織は静かに頭を下げる。
「ありがとうございました」
下げられた手がかすかに震えているのが人事担当者の目に留まる。
詩織はしばらくそのままだった。
「私にできることってなんなのでしょうか?」
呟かれた言葉は、雑踏にまぎれた。