初仕事なんです!
「随分、前向きなんですね」
吉野管理官がにこやかにそう言います。
それには軽く笑って誤魔化します。
「困ったことはありませんでしたか?」
「そうですね。毛布が欲しかったですね」
この言葉に吉野管理官が部屋の奥を見ます。
一応、女の子の部屋ですよと言いたい。
言ったらおかしいんでしょうか?
悩みます。
だって私は『滞納者』なわけですし、気にするのがおかしいと言われれば反論できません。
「この部屋は、折り畳みベッドですね」
告げられた言葉に頭が真っ白になります。
物凄く恥ずかしいです。
壁のハンガーかと思っていた部分が軽く揺れて、動いたかと思えば、それはベッドの一部でした。
特異能力で部屋に入ることなくベッドの存在を教えてくれた吉野管理官に私は頭を下げます。
「ありがとうございます。気がつきませんでした」
「いえ、初日から気がつく方は少ないですから、下ろしておかれるケースが多いんですよ。災難でしたね」
感想を言えば、居住環境はかなり整えられてるんだなと思います。
「行きましょうか」
そうでした。今日の職場案内でした。
私は慌てて頷き、外に出ます。
空気はまだまだ冷たくて気持ちが引き締まります。そう。頑張りますよと一声出したいくらいに。
流石にできませんけどね。
「説明は受けているでしょうが、IDカードは常に携帯してください。財布であり、部屋の鍵ですから」
行き道説明を受けつつ、連れて行かれた先は工場でした。食品の自動販売機や喫茶店雑貨屋さんなどを紹介されます。
チラリと見た軽食は200バオルから。夜カードリーダーで確認した半日での基礎支給額は600バオル。そこから半分が管理費としてはねられた金額が実支給額。
吉野管理官は工場の人事らしい方と話しています。
そのそばを通り過ぎる人の流れ管理官をチラ見して興味なさげに工場に入っていく。
その空気は無関心そのもの。
活気というものはほとんど感じられません。
「こっちだ」
どうやら私は人事の方に引き渡されたようです。
「それでは後ほど」
吉野管理官はそう告げて、おそらく他の仕事に向かわれたようです。
作業は仕分け作業でした。
頑張りますよー。
数分後。
「あー。頑張ってるのはわかるんだが、そっちじゃなくてこっちの作業に入ってくれないかね」
「はい! 頑張ります」
申し訳なさそうに移動を告げられ次の場所へ。
午前中だけで四箇所も巡りました。
負けません!