それは国家の義務なのです!
朝起きて支給された衣装に着替え、普段は二つに結う髪をひとつに束ねます。
水道水はお世辞にもおいしいと言えませんが支給予算は潤沢とは言えず、非常食も二週間分揃っているわけでもない私が取るべき行動は、そう
「労働しますよー」
労働先が存在しないなどと私は考えません。
この国のモットーに『納税は国民の義務』と言う言葉があると同時に『労働先提供は国家の義務』と言う言葉もあるのですから。
仕事がなく稼げないのに税だけ納めろだなんておかしな話ですからね!
昨夜就寝する前にカードリーダーで労働先の候補はいくつか見繕ってあります。
向うべき職場を思い浮かべ、ドアノブに手をかけた瞬間、動きが止まってしまいます。
あら?
もしかして、進んで労働先を見つけるのは間違っているのかしらとも思うのです。
私が知るべきは多くの一般的な『滞納者』です。
彼らはなぜ滞納するのか。
『適切な仕事』ができないからです。
悪質にもわざと脱税なさる方もいるのは事実ですが。
主な理由としては仕事をすることができない。の一言に尽きます。
仕事が見つかっても数日で辞めてしまったり、向かないあまりに心を病んでしまったり、人とうまく接することができなかったりと多様な原因が存在すると授業で習いました。
つまり、私がまずすべきことは、『上手くいってない方』を見つけることでしょうか?
ドアノブに手を掛け、そのような事を考えているとノック音。
慌てて開けると、
「確認してから開けなさい!」
叱られてしまいました。
「自分は吉野景都。軍属です。世話役として最初の職場に案内します」
やんわりした物腰の彼は爽やかに笑う。
『軍属』
つまりは『管理官』です。
薄い水色の髪に薄い茶色の瞳。
ありふれた特異者の色合いのひとつで、その条件では能力タイプを判別できません。
「特異科の方ですか?」
彼は少し驚いたような表情を見せたがにこやかに頷く。
特異科とは実用に足る特殊能力を使うことのできる人たちの集められた軍部組織の一つです。
特徴の一つに髪や目に不思議な色が入ったりします。
死んだり、能力が失われたりすると髪や目から力の有無の発露のカケラである色が失われ、生まれ持った遺伝上の色合いに戻るのです。
「こわいですか?」
問われ、首を横に振る。
中には意思の力で陸上でありながら人を水死させたり、上空高く持ち上げて落下させたり、内臓を抜き取ったりすることが可能な方もおられるとは聞きます。
しかし、能力はあくまで道具です。
軍属と名乗った時点で心配はないのです。
「いいえ。私は詩織と言います。どんな仕事をすることになるんでしょうか?」