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解説    惣領耕平

 解説  惣領耕平



 すでに懐かしい思い出に、と書きたいところですが、いまもよくこのころのことを思い出します。


 もちろん、この小説は事実通りの事ばかりではなく、物語としての誇張もたくさんはいっていますし一章まるまる創作されているところもあります。開発中の記述支援用人工知能が機能している証拠ではあるのですが、私としてはそれによりこの物語がおもしろくなっているかどうかはともかく、あのころそのままの内容がみなさんの目に触れることには複雑な気持ちもあり、故に、少なくとも、その意味では「彼」は有効にはたらいてくれたのだと考えています。

 私は、現在次世代のヒト型機械の開発にかかわっています。あのころの音琴と同じような立場であり、上司は音琴です。

 もしも興味ある人がいればという前提で書きますが、当時の開発メンバーである尾津や八盾、その他のメンバーも一部を除き変わらず、今のプロジェクトにそのままシフトして元気にやっています。お話中でいうところの「涼子さん」、というか「川澄屋の涼子さん」は、今ではおかげさまで惣領涼子に、というかつまり、その後私たちは結婚しました。

 いまでも土日は、私が配達をしています。でも休日も出勤が多いので、おばあさんも義父も不満なようですが、勘弁してください。すみません。


 もう、二十年も経つんですね。 

 AIX-type00シンパシィの開発を中心としたSPプロジェクトは、この物語に書かれている顛末とほぼ同様の現実により一度、解散しました。私はその後入社し、しばらくの後にS2プロジェクト発足と同時に配属になりました。

 その部署名自体が全てを表している気もして警戒しましたし、全てを忘れたかのようにプロジェクトの再構築に精力的に動いていた音琴に不信感も抱きました。現在でも、それを全く感じなくなっている、というわけではありません。ですが私は私なりの理由をもってこの仕事に就いています。

 なお、現在は音琴が室長です。その辺はこの物語と重ねて考えてみてもらってもそう事実と違わないところ、かもしれません。


 時間が経った今、このような物語が書籍として出版されるということは、私の知る限りやそれ以上のところでも、既にあのときの事は全てカタがついたという事なのでしょう。この物語にはいろいろとでてきます。米国の軍需産業とか、なんとかとも。物語の中ではともかく、実際の彼らはもっと…。 いえ、これも書かなくて良いことのひとつなのでしょう。


 この物語のどこまでが事実なのか。それは読者のみなさんに考えていただければと思います。もちろん全てではありません。どこまでが事実でどこからがウソなのか、それは当事者であった私たちのそれぞれの視点から見た記憶の中だけにあります。とても本になんできない多層的な記憶でしょうし、それに、もう10年以上前の話です。


 ですが、これだけは本当ですし、伝わって欲しいと願っています。


 あのころ、私たちといっしょにシンパシィという存在が共に暮らしていました。

 いっしょに出かけたり泣かされて帰ってきたら慰めたり、設計課のみんなでいじめっこの家にのりこもうとするのを彼女はさらに泣いて止めたり、犬におっかけられたり、長い坂をいっしょに自転車や台車をおしてくれて配達したり、風が気持ちよかったり。そんな日々が確かにありました。

 彼女が、ヒトのおなかの中から生まれてきた存在なのかどうかは関係なく、私たちは彼女と共に過ごしたことを覚えています。そして、あまりにもいろいろな事の末、突然のお別れがありました。


 「涼子の祖母」は、今でも仏壇に彼女の遺影を飾り、位牌にお線香をあげています。「涼子の父親」や「おとうさんたち」も、彼女のことを思いだしては、時々酒を呑んでいるようです。うちの押し入れには、いまでも彼女の主演した自主制作映画のビデオや写真、彼女の書いた「ネコたんマン」の絵や、そのほか、いろいろな思い出のつまった箱があり、そして彼女はもういません。どこにも。


 生きているとは何でしょうか? 息をして心臓がうごいていることなのでしょうか?あるいは死んでいない、ということなのでしょうか? では、死ぬとは何なのでしょうか?

 彼女は、死んだのでしょうか?

 

 この本を出すことを音琴に相談されたとき(彼女が他人になにかを相談するなんて限りなく珍しいことです)、私は最初やめてほしいとお願いしました。

 もちろん、彼女は感傷だけで判断するような人間ではないから、ビジネス上の理由があるのは間違いない。それはいろいろと説明もされました。でも、最後に彼女がぽつりといったビジネス以外の理由を信じて、私に解説を書いてほしいというお願いを条件付きで承諾しました。その条件に基づいて、この解説には彼女のチェックを入れていません。


 間違いなく、あと少しの時間が経てば、私たちの暮らしの中にヒト型でヒトとしての生まれを持たない仲間達が加わってくるでしょう。これまで慣れ親しんだ、掃除機やテレビと同じように身近に、でもちょっと違う形で暮らしに参加してきます。

 いっしょにごはんを食べるわけではないけれど、共に笑い、泣き、いっしょに暮らすことでしょう。さらに時間がたてばともに食事すらして、酒を酌み交わすかもしれません。

 最初はぎこちないときもあるかもしれません。ですがそのときは、どうか優しくしてあげてください。彼らは私たちと共に暮らす仲間として産まれたのです。


 自分の学生のころの記憶が、それなりに事実に近い形でのっかっている物語を読むのはおかしな気分でした。でもそれもいいのかな、と思っています。私も40歳を超えました。今の自分や、現在の全てを想像もしていなかった頃の物語です。


 少し前、我が家にもう一人家族が増えました。女の子です。涼子もよく頑張ったと思います。私たちの子が、当時の私くらいになるころには、シンパシィが夢見た日々がこの世にしっかりと、自然に、存在するよう願ってやみません。


 弊社、ならびに私たちの新しい仲間をどうぞよろしく御願い致します。


マヤ株式会社 

S2プロジェクト 企画統括課長 惣領耕平





(了)

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