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けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
99/129

99話 去ろうとする千歳と追ってくる中年男

 今日も今日とて部活の日。

 その部活帰り。

 千歳は一人帰宅の途についていた。

「ううっ……寂しい」

 他の女性陣はお題箱の勉強会ということで喫茶店に入っていった。千歳も仲間に加わりたかったが、皆に反対されたのだ。

 普段、ワイワイと帰っているだけに一人ぼっちで帰るのは寂寥感がある。

「フッフッフ。今日は寂しそうだね、千歳くん」

 そこに声をかけるのは中年の男。

 白衣を着て、無精髭を生やすこの男が千歳の帰宅風景をさも面白そうに口元を歪ませ笑って見ていたのだ。

「ドモ」

 千歳は中年の男に軽く頭を下げ、通り過ぎていく。

「今日の晩ごはん何だろ。アリアの帰りが遅くなるのだったら僕が作った方がいいのかぁ」

 そして、ブツブツと呟きながら夕食について思いを巡らす。

 さて、もうすぐで家路につく。

「ちょ、ちょっ、ちょっ! 待って! 待って! 千歳くん、何で素通りするの!?」

 通り過ぎたはずの男が、千歳の目前に再度現れる。

「え?」

「顔見知りだよね? 知り合いだよね? むしろ、それより深い仲だよね?」

「ボ、ボブ………?」

「ボブって誰!? 碧人だよ! 緋毬の父親の竜崎碧人だよ! 千歳くんからいつも格好いい碧人さんって呼ばれている碧人さんだよ!」

 中年の男は竜崎碧人だった。

 竜崎エレクトロニクスの偉い人なのにちょくちょく帰り道に遭遇する。実は暇なのだろうかと思わないでもない。

 千歳は碧人の言葉に少し目を見開き、そして頭を下げた。

「失礼しました。ちょっとボブって人と似てたのでうっかりしました」

「フフン。そのボブって人は僕に似てさぞイケメンな外国人なんだろうね」

「はい。黒人の……」

「人種全く違うじゃん!? 僕、イエローですよ!? 日本人ですよ!? 絶対見たら別人だと認識できるよね!?」

 千歳の言葉にかぶせて碧人がツッコミを入れる。

「それで碧人さん、どうしたんです?」

「さらっと流すね、千歳くん」

「じゃあ、さようなら」

「流れるように去って行かないで!」

 碧人は千歳の服を掴んで止める。

「わかりました! わかりましたから、服を離してください!」

 最近、女性に服を掴まれることが多かっただけに中年の男にやられるとガックシきてしまう。可愛くもなんともない。

「はぁ、今日は何です?」

 溜息をつきながら、千歳は碧人の相手をすることにした。

「フフン。写真の件だ」

 そんな千歳の態度を気にも留めず、碧人は話し出す。

「この前撮った、夏服のですか」

「そう! まずは礼を。写真ありがとう! けど、何で顔にモザイク入ってるの!? 緋毬の顔がわからないじゃん!」

「被写体の希望で」

「酷い! そして、一番酷いのはけんぽう部員の集合写真で顔が全員僕の顔になってることだよ! リアルでお茶吹き出したよ!」

「それはノリで、つい。ごめんなさい」

「面白かったからいいけど」

「いいんだ……」

 碧人的にありらしい。流石世界に名を轟かす企業のトップなだけに感性が独特だ。

「っていうか、碧人さん家族なんだし、自分で撮ってくださいよ」

「断られたから千歳くんに頼んでるんだよ! 僕は取引先とかの人達に僕の娘を自慢したいだけなんだよ!」

「それが問題だと思います。見ず知らずの人に見せびらかすから嫌がられるんですよ」

 緋毬も鬼ではない。父親が家族の思い出として欲しいのなら了承するだろう。

 自慢道具として扱われ、知らない人の間で有名になるのが嫌なのだ。

「かくなる上は隠しカメラを家に設置して」

「それバレたら離婚か別居になると思いますよ」

「うん……実はやるなって釘さされてる」

 しょんぼりとしながら碧人は打ち明ける。

 悲しみの理由は家族にやると思われてることなのか。先程の発言は冗談で本当にやるつもりは微塵もない。

「じゃあ、たまに部活風景をアリアが録画してるんでしょ? そっから画像取ればいいじゃないですか」

 千歳は励ますつもりで碧人に提案する。すると、碧人は首を振った。

「出来たらいいんだけどね。あれ何故かプロテクトかけられてて見ることは出来ても違う記録媒体に保存が出来ないんだ。それもアリアくんが見せたくないと思った部分は見れないし、モザイクや湯気や謎の光が出てくる時もあるし。千歳くん、あれ一体どうなってるの? 製作者にもわからないブラックボックス的な機能満載なんだけど?」

「さ、さぁ?」

 冷や汗をかきながら、千歳は目を逸らす。

「まぁいいけど。だから定期的にメンテナンスの名前の技術協力をさせて貰ってるし」

 研究者にとって未知とは喜びでもある。自分が知らない技術を探るのは面白いのだ。

「まぁ、今日の所は千歳君とのツーショットで我慢しとこうかなっと」

「何でそうなるの!? 取引先にどう自慢するのですか!?」

 千歳の言葉に碧人はノンノンと首を振る。

「そんな用途には使わないよ。ただ、待受画面にして家族に自慢したいだけさ!」

「ええっ!?」

 そして、碧人にせがまれツーショット写真を撮った。

 余談だが後日、千歳は碧人の家族にツーショット写真をおねだりされるのだった。

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