97話 バラバラなピースが優しく配列されますように
「い、いっ、一体どういうことなんだい!」
千歳の口から出た言葉。御影はその言葉を脳内でいくら反芻しても、受け止めれなった。
だから怖くても千歳に聞かざるをえなかった。
「え、えーとですね」
対して千歳。顔面を蒼白させ聞いてくる御影に答えづらそうに目をそらし頬を掻く。
「教えてくれ」
青ざめた顔をしながらも目だけは力強さがあった。
その御影の決死とも言える表情を見てしまった。千歳も決断する。
「前にも言ったと思いますが……神代流に型があります」
「待て、一体何の……」
話だと御影が聞こうしたが、御影も千歳の目を見て言葉を止める。
彼が話をはぐらかしているわけではないとわかったのだ。
「その型は合計九つあります」
「……前に聞いたのは八つだったはずだけど」
御影の問いに千歳は、はいと頷き。
「武術の型が八つありますが、正しいです。そして前回言わなかったことですが、武術の型ではない型もあります。それが九の型……」
「九条院ってことか」
御影が千歳の言葉を引き継いで言う。
「はい。九条院乃型は八つの型とは違い魔術を扱います」
「つまり、私が魔術師と言うのも」
「名前から、そうではないかなぁと思ってました。確かめはしませんでしたけど」
「聞けば良かったのに……」
想定外と言えば想定外だが、今の状況は最悪ではない。重い肩の荷が下りた気分だ。
緊張を息を吐くことで一緒に霧散させる。それと同時に、愚痴も出てしまった。
「ご、ごめんなさい。聞こう聞こうと思ってたんですけど……」
「千歳様がヘタレてしまって聞き出せなかったのです」
それまで黙っていたアリアがフォーローに思えないフォローをする。
「ぐっ、事実だから言い返せない」
「けれど、御影様。誤解なさらぬように」
「誤解?」
アリアは一度目を瞑る。閉じた目は何を思っているのかわからなかった。
しかし、開かれた目には何かの意思を感じさせた。
「はい。千歳様が御影様の正体を暴かなかったのは、陰で『御影さん、隠してるけど魔術師なんだぜ。うぇへっっへ』と笑うためではなく……笑うためではなく? 笑うためではないですよね、千歳様?」
「なんで途中で自信がなくなるの!? 当たり前だよ!」
「いえ、もしかしたらと思いまして」
アリアはコホンと咳をして、空気を入れ替える。
「御影様ご自身から語るのを待っていました」
「私がかい?」
はいとアリアは頷く。
「想像ですが、緋毬様は御影様が魔術師と言うのを知っているのではないでしょうか?」
「……うん。ひーちゃんは知ってるね」
そしたら、何故緋毬が御影が魔術師であることを伝えなかったという疑問が出てくる。
その疑問に応える様にアリアは話し出す。
「緋毬様が言わないのであるなら、御影様が秘密にしておきたいということなのでしょう」
「ああ……」
バラバラに別れたピースが繋がった。
言うなら自分で伝える。緋毬は御影の言葉を律儀に守っていたのだ。
緋毬の性格では歯痒かったはずだ、辛かったはずだ。それでも守ってくれたのだ。
御影の言った言葉を。
「ひーちゃん、君って人は……」
御影は憎らしげに呟く。だが、言葉とは裏腹に口元はゆるんでいた。
「千歳様は無理やり暴いて御影様が傷つく可能性を恐れました。それで聞くに聞けなかったのです……あれ、やっぱり千歳様がヘタレだっていう結論になりませんか、これ?」
んん、と首を傾げるアリア。
「最後の方向性!? フォローするならやりきって!」
「虎穴に入らずんば虎児を得ず。リスクを恐れて動かないでいるより、行動してベストな未来へと頑張れば良かったとアリアは愚考します」
「うっ……」
「そう! 御影様とキャッキャウフフしたいなら正体を暴いて、秘密をバラされたくなかったら体を差し出せと要求すれば良かったのです」
「違う方向性になってるよ! 何で脅すことになってるの!?」
「ほう。千歳君。キャッキャウフフは否定しないのだね?」
御影は悪戯げに笑い、千歳の手を握る。
「ちがっ! そ、それはツッコミ切れなかっただけど、あのその……」
御影に言われたことと、いきなり手を握られたことで千歳は混乱してうまく釈明出来ない。細いひんやりとした御影の手の感触が思考を妨げるのだ。
「そうかい。違うのか、残念」
そう言って、御影は千歳の手を離す。。
「あら、御影様。千歳様にアタックされるのはオッケーなのですか?」
「ええっ!?」
「ふふっ。千歳君は弟のようなものだからね、好かれて嫌にはならないよ」
「千歳様。良かったですね。もし、告白していたら玉砕でしたよ! 告白する前だからセーフです。次の機会を伺いましょう!」
「ツッコミ切れない!」
「千歳君」
あたふたと慌てる千歳に、御影は優しく千歳の名を呼ぶ。
えっ、と千歳が振り向くと御影の目が千歳の目を真っ向に見つめ、
「これからも、よろしくね」
朗らかに笑ったのだ。
憑き物が落ちたような朗らかな笑顔に千歳が我を忘れてしまった。
尚、それをアリアに茶化されたのは言うまでもない。
御影はその光景をずっと笑って見ていた。




