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けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
96/129

96話 あかん。もう駄目や

 場所は物理実験室。

 前話の続き。

「アリアのことは気にせずそのまま続けてください」

 アリアは無表情に手をどうぞと押す仕草で御影達に言う。

「あ、アリア君っ!」

「いたんなら助けてよ!」

「アリアはつい見ていられなくて助言をしただけです。いないものとして扱ってくれればと」

「無茶苦茶なこと言ってる!?」

 サムズアップするアリアとツッコミを入れる千歳。

 その二人を見ていたら、御影の動揺も少し収まってきた。

 千歳の服を掴んだ服が緩む。

「御影さん?」

「ごめんね、千歳君。服が皺になっちゃって……」

 火が消えたように元気をなくし謝る御影。

「だ、大丈夫です! ええ、大丈夫ですとも!」

 その勢いのなさに千歳は慌ててフォローを入れる。

「殺してくれ」

「服の皺でそこまで!?」

「その前だよ、千歳君」

 御影は、ははっと乾いた笑いを浮かべる

「気が動転してたとはいえ大切な……仲間である千歳君に暴力を振るおうとしていたんだ。許されるものではないよね」

 御影はそう言って、アリアの前に。

 そして、両手を揃えてアリアに差し出した。

「お手数をおかけします」

「ちょっと、御影さん。何逮捕される雰囲気出してるんですか!?」

「御影様が帰ってきたら、千歳様の全財産をくれちゃる」

「アリアも乗らないで! っていうか、僕の財産なの?」

「はて、映画の台詞を使ったのですが間違えてたでしょうか」

「一切合切間違えてるかね。というより、御影さんも気にしなくていいですからね」

「で、でもっ」

 御影は頭を振る。御影の長い髪が強く波打った。

「御影様。千歳様の言う通りです」

 アリアはポンと優しく御影の肩に手を乗せた。

「えっ?」

「考えてみてください。千歳様は神代流という武術を習得しております。やろうと思えば、服を掴まれた程度では抑えこまれたことにはなりません」

「あっ……」

 気が動転してて忘れていたこと。

 千歳はこの部活の名前の元になった神代流という拳法を習得しているんだ。今となっては拳法ではなく武術じゃないかと思えてならなかったが、部活申請の時に憲法とミスリードするために無理やり合わせただろうと無理やり納得するしかない。

「千歳様が本気になれば、あの状況で一秒もかからず御影様を地に伏せることが出来ます」

「うん……やろうとは思わないけど」

 伏し目がちに千歳は同意の言葉を言う。 

「それに何よりアリアがおります。アリアがいる限り、千歳様に危害は加えられません」

 格好良く、アリアは宣言する。

 だが、それをジト目で見る人が一人。

 千歳だ。

「さっき、全然助けてくれなかったんだけど」

 千歳の言葉にアリアは、はぁと溜息一つ。

「千歳様は人類最強ですからね。アリアの助けが要らないんじゃないかと恨みがましく思っています。たまにはピンチになればいいのにと切に願ってます」

「矛盾したこと言ってるよ!?」

「だって千歳様。もし、抵抗せずに御影様の攻撃を受け入れても無傷でしたでしょ」

「えっ!?」

「それはそうだけど……」

 御影の驚嘆、そして、それに続く千歳の同意の声。

「ところで、御影さん。ここで何をしてたんですか?」

 疑問を正す間もなく、話は進む。

 機を逸した御影は少し迷うように顔をアリア、千歳と視線をさまよわせる。

「千歳様。女性の秘密を覗くのはどうかと思います。人には言えない趣味がありますから。アニメが好きでもいいではないですか、その真似をしてもいいじゃないですか」

「そうだよね。ごめん……」

「違う! 違うよ!?」

 御影は慌てて訂正する。このままだったら厨二病患者認定だ。温かい目で見られてしまう。

「実は、実は……」

 御影は言いづらそうに何度も口ごもる。

「実は、私は魔術師なんだ!」

 そして、勇気を出して御影は自己の最大の秘密を打ち明けた。

 裁判の判決を待つ被疑者のように、千歳の返答を待つ。

 そして、千歳は、

「あ、やっぱりそうでしたか」

「え?」

 と御影の予想していた返答とは全く違うことを言い放ったのだ。


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