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けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
95/129

95話 リカバリー!? リカバリーをっ!

 場所は物理実験室。

 前話の続き。

「…………」

「…………」

 御影と千歳は無言で顔を見合わせていた。

 御影は儀式の失敗、千歳をどうするかを悩んでいたため。

 千歳はわけがわからないままなのだが、空気に押され。

「ええと、ごめんなさい」

 黙っていても埒が明かぬと千歳は頭を下げる。

「いや、別にいい……って良くないんだけどええと……」

 対して御影は未だ混乱の海にいる。

 何を言えばいいのかわからないのだ。

「でも、何か重要なことをやっていたんでしょ」

 目線をチラリと魔法陣に向ける千歳。

「あああ…………」

 そうだと言いたい気持ちと傍から見たら私って厨二病的なことをやってるようにしか見えなくないかという思いが御影の体を駆け巡り熱を発生させる。

 休日にわざわざけんぽう部の部室で厨二的儀式。それも高校生が、千歳の姉代わりと思っている自分が。

「ええと、その……千歳君はなんでここに?」

 顔を林檎色に染め、御影は千歳に聞く。

「僕はその、ここに忘れものしちゃって」

「忘れ物?」

「ええと………これです」

 千歳は席を立ち、とある席の椅子の上から何かを取る。

「はい。財布を忘れちゃって」

「そ、そうなのか……」

「はい。僕ってドジでハハ……」

「…………」

「…………」

 そこで会話が止まる。

 千歳にしても、御影さんこそ何でと聞いてみたい所だが、空気的にそれを聞けない。

 御影にしても良い言い訳を思いつかない。

 厨二的儀式だと言い切るしかないのだが、光り輝く魔法陣を見ていたら、その言い訳は無理があると気がついたのだ。

「御影さんも忙しいようなので、僕はここで……」

「ちょ、ちょっと待った!」

 日付を変えて何事もなかったかのようにするリセット作戦。

 それをしようと千歳は席を立つ。だが、御影は立ち上がった千歳の服を掴んで阻止をする。

「逃げようったってそうはいかないよ!」

「逃げようとは……」

「千歳君とは色々あったね」

「唐突に何!?」

 突如話を変えて、変なことを言い出す御影。

 話題もだが、御影の様子も変わったことに千歳は気づく。

 これは何かを決めた人の空気だ。

「千歳君にこんなことをするのは心苦しい」

「じゃあ止めましょうよ! 服、服を!?」

 服を掴む、御影の手が増々強まる。

「辛い。私も辛い!」

「ほら、僕も忘れますから。御影さんの趣味は!」

「趣味って言うな!」

 二人の口論がそこで一瞬止まる。

 互いの目線が交差する。

「大丈夫。ちょっとチクっとするだけだから! 2,3日記憶が無くなるだけだから!」

「大事ですよ! 何か御影さんの手が光ってますし!?」

「これを千歳君の頭に載せて、WRYYYYYYYすればいいだけだから」

「だけじゃないですよ、やばいですよ、それ!? WRYYって何ですか? 怪しすぎます!」

「千歳君。WRYYじゃないWRYYYYYYYだ!」

「訂正する場所、そこ!?」

「介護はちゃんとするから! もし失敗しても一生かけて償うから!」

「失敗する可能性もあるの!? 増々嫌ですよ!」

「暴れるな、千歳君。力づくではやりたくないんだ!」

「十分力づくですよ!」

「先っぽだけ。先っぽだけ当てるだけだから!」

「御影さんが増々変なこと言ってる!?」

「増々って何だ!?」

 あーだこーだ言い合う最中。

「あのー千歳様。正当防衛を盾に御影様を襲うチャンスだとアリアは思いますのですが」

「いや襲われるのはって……エエっ!?」

 いつの間にか物理実験室の端にアリアが立っていた。

 アンドロイドのアリア。

 御影の脳内にチェックメイトの文字が流れた。

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