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けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
94/129

94話 失敗は出来ないとフラグを立てる

 今日も今日とて月曜日は来る。

 望まぬとも。

 場所は物理実験室。

「…………」

 月曜日なので本来は学校の授業があるのだが、この日は文化祭が終わった翌日。

 なので代休である。祭りだったから、別に代休にしないで授業でも良くないかと保護者は考えるかもしれないが、遊び疲れた疲れを癒やす休みが欲しい生徒とそれを監督してた先生達に休みが必要なのである。

 授業がないから、部活動もない。

「…………良し。出来た」

 だが、物理実験室に御影は居た。

 机に幾何学模様の図形を描き、一人頷いていた。

 ちょっと怪しい、いやかなり怪しい光景だが、それをツッコむ人は物理実験室には居なかった。

 部活動がないといったが、それはけんぽう部も例外ではない。

 なら、なぜいるのかということだが、不法侵入である。

 物理実験室の鍵をあらかじめ複製しておき、学校内に入っていったのだ。

 もし、これが夜間ならばセキリティーを切ってあったが、今は昼間なので大丈夫だ。文化祭の後片付けをする生徒会役員と先生のためにセキリティの類は切ってある。

「場所はここ。刻限も良し。体調も良し。霊気の巡りは完璧」

 真面目な表情で床、時計、手に視線を移していく御影。

「しかし、運が良いとは片付けられない巡り合わせだね」

 御影の独り言が進む。

 興奮が抑えきれないからだ。自然と言葉が漏れる。

「霊脈が集う場所がこの学校。時期も良い。文化祭明けで学校にいるのは数えるほど。それも生徒会長達は体育館で作業中。後、二時間は校舎に戻ってこない。もし、戻ってきてもこの物理実験室に来ることはないだろうね。けんぽう部で本当に良かった……」

 儀式に集中出来ると御影は独りごちる。

 御影は大きく息を吸い、止め、そして、吐き出した。

 自分の胸に手を当て、自己の鼓動を確かめる。

 手から伝わる感触に少し眉根を寄せたが、集中、集中と言って表情を戻す。

「失敗は出来ない。機会は一度のみ」

 御影はツバを飲み込む。

 ゴクリと音が鳴った。

「大丈夫。私はいける」

 自己に言い聞かせるように御影は言う。

 そして、始まった。

「九条院御影が唱え、示す」

 その言葉と共に御影の目の前に描かれた幾何学模様がうっすらと光り輝き始めた。

 それは魔法陣。

 魔力を通すことで効果を働かす。

「魔は滴り、点を創る。

 点が流れ、線と成る。

 魔は通い、巡り、廻る。

 線は蠢き、意味を成す」

 御影の掲げた手が淡く輝く。

 連動するように魔法陣の輝きも強くなっていく。

「告げる。告げる。告げる」

 儀式も佳境。

 御影の形相も必死そのものだ。荒れ狂う魔力の奔流を全力で制御しているからだ。例えるならそれは、小舟で大嵐タイランの海原を渡るが如し。

「汝の身は我が下へ。

 運命からこぼれ落ちた雫が一欠片。

 権能、力、牙、全てが抜け落ち。

 それでも欲するのならば。

 我が呼び声に応えよ」

 そして、儀式も終盤。

 ここまでは順調。あとは一言呼べばいいだけだ。

 ここまで来れば、まず失敗はない。

 御影は安堵と共に、最後の言葉を唱えようと目線を少し上げた。

「クル---えっ」

 目線を上げたその先に、何故か千歳と目があった。

 千歳は戸口から半分顔を出し、何かいけないものを見たかのように引きつっている。

 千歳の出現に御影の頭は思考停止する。

 当然魔力の流れが止まり、儀式も失敗。

 だが、御影はそれすら気がつかない。

 頭にあるのは千歳の出現のことのみだ

「えっ、えっ、えっ」

「なんか、お忙しいようで……ごめんなさい」

 事情がわからぬまま千歳は戸口を閉めようとして、

「待てーーーー、待って、千歳君」

 御影は慌てて千歳を呼び止めるのであった。

 

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