92話 人数?ああ、そうスね。ものすごく足りないです。
今日も今日とて部活の日。
場所は物理実験室。
「野球をしましょう!」
セルミナが自分の読んでた本を机に置いてそう宣言したのは。
「ああ……またか」
何処かデジャヴを覚えながらも、緋毬はセルミナの読んでいた本を見て理解した。
「セルミナ君、どうしてそんなに野球をやりたいんだい?」
礼儀として、御影は一応セルミナに聞いてみる。
「野球が好きなんですわ! 御影、いえ、緋毬やアリアや千歳と同じくらいに……ですわ!」
「おい、セルミナに漫画読ますの禁止にしようぜ。影響受けすぎだぞ、コイツ」
「違いますわ、緋毬。そこは『条件がある……ですわ!』」
「何もわかっちゃいねぇ!?」
「セルミナ様。野球をやるにしても相手チームが必要です。そして、自軍には人数が足りません。そこはどうするのでしょうか?」
アリアがセルミナの席にお茶を置きながら尋ねる。
バスケの時は五人だったためけんぽう部の部員で足りたのだが、野球は九人でするスポーツだ。あと四人足りない。
アリアの問いにセルミナは髪をかき上げて、優雅に答えた。
「野球部と試合すれば良いのですわ! 人数が足りないのは緋毬と千歳が何とかしますわ!」
「人任せかよっ!?」
「えぇっ!? そんなん無理ですよ」
いきなり指名されて、千歳が悲鳴をあげる。
「だな。いきなり野球しようって言って集められるわけねぇ。そんなん無効試合に決まってる」
「決まらないんですわよ。野球ってヤツは。どんな点差でも最後のスリーアウトをとらない限りはね」
「試合自体が始められねぇんだよ」
緋毬が顔に手を当ててボヤく。
「それにわかってますわ。女のイヤにはOKって意味もあるのですわよね!」
「それは違う意味だよ!」
「しかし、人数集めに私やアリア君が入ってないのが地味に疎外感を感じるね」
「光栄に思うのですわ、緋毬、千歳。わたくしは八百屋にサンマは注文しないのですわよ。貴方達なら出来ると思ってますの」
「フォローじゃなく、攻撃が来た!?」
「自分で集めろと言いたい」
「御影様は友達がいないと思われているのでしょうか」
余談だが、メイドロボであるアリアにとってクラスメイトは友達という意識はない。仕える主人のクラスメイトという感覚だ。
「わたくし、御影のクラスに行った時に休憩時間に一人寂しく寝ていたのを知っているのですわ! 授業が終わったのに誰も起こしてくれない御影に同情を覚えましたの」
「解説しなくて良いよ! ほ、ほら、休憩時間だから寝ていた可能性もあるじゃないか。ねぇ、そうだよね千歳君!?」
「僕に振らないでくださいよ!」
御影が千歳の服の袖を掴み、涙目に聞いてくる。
否定しないというのは答えを言ってるようなものだから、フォローし辛い。
千歳は緋毬の方を見て助けを求めた。
「人生も友達作りもプレイボールがかかったばかりだろ。みーも今からなんだ!」
「良い事言いましたわ、緋毬! ガンバですわ!」
「そういうフォローじゃないよ! いるからね、クラスに友達が!」
はいはい、わかってる冗談だと緋毬が言うと、ひーちゃんを信じてたと御影が緋毬の胸に飛びついた。緋毬は御影の頭を撫でながらセルミナに言う。
「野球をやるにしてもポジションはどうするんだ?」
「勿論、わたくしがピッチャーですわ」
胸を張ってセルミナが答える。
ピッチャーは野球の花型ポジションだ。漫画の影響を多大に受けているセルミナがやりたがったても不思議ではない。緋毬も反論せずに受け入れる。
「ならキャッチーは千歳だな」
「別にいいけど、何で?」
千歳が聞くと、緋毬はああと頷いて。
「キャッチャーは手が痛くなるから、千歳にやらせとけばいい。セルミナが豪速球投げても問題無いだろ」
「なんか理由が理不尽だ……」
「あん? か弱い女性にキャッチャーやらすほうが酷いだろ。セルミナがノーコンだったらどうするんだ。球がぶつかったら痛いんだぞ」
「ああ、たしか……ってそれはそれで酷くない!? 僕のことはどうでもいいの!?」
「そうですわ。わたくしはきっと西洋に咲く精密機械と呼ばれるほどのコントロールですのに」
「呼ばれて嬉しいのか、それ?」
緋毬が首を捻る。
が、それも一瞬。まぁ、いいかと咳をして話を進める。
「キャッチャーは千歳として、あと重要なのはショートとセカンドか。誰にする?」
「ショート? 何ですのそれ? 野球にそんな備位置があるのですの?」
「コイツちゃんと漫画読んでねぇ!?」
「大丈夫ですわ! 野球に必要なのは打って走って守る人があと8人。それだけですわ!」
「その人数がたりねぇんだよ!」
話が最初にループする。




