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けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
89/129

89話 両手を組んで波を作る!

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

「みーのクラスは文化祭何をするんだ?」

 緋毬が何気なしに御影に聞いたことが始まりだった。

「ん? ストリートダンスと縁日だよ」

 勉強していた手を止め、御影が答える。

 御影の持つペンが唇に触れるのを見ながら、緋毬は口を開く。

「縁日とストリートダンス二つか。珍しいな」

 普通はやるにしてもどちらかだ。

「ストリートダンスは初日しか場所が取れなかったからね。初日はダンスで二日目は縁日なんだよ」

「場所はやっぱ中庭か」

「うん。そこしか取れなかったみたい」

 文化祭のステージは体育館、柔剣道場、中庭の特設ステージと三種類あるが、屋内である体育館や柔剣道場は人気が高く、基本的に三年生に振り分けられている。残った中庭にしても各クラブの出し物があり、自由に出来る時間が限られているのだ。

「踊るのは全員で?」

「うん。全員で」

「なるほど……みーってダンス踊れるのか?」

「ひ、酷いこと言うね」

「だって、みーって運動音痴だろ?」

「へー、御影さんって運動が苦手なんですか?」

 話に加わるのは千歳。

 二人に見つめられ何故か御影は少し気まずさを覚えた。

「べ、別に運動が人より少しだけ苦手なんだ。と言っても踊りにはか、関係ないよね。私だって人並みに踊れるのさ」

「あら、御影。文化祭で踊りますの?」

 その声はセルミナ。

「漫画は良いのか?」

「ええ。切りもいいので本日はこのぐらいにしておきますわ。それより興味深い話をしてますわね。文化祭の話ですわよね、さっきの話は?」

 セルミナは読んでいた漫画を本棚に戻し、話に加わる。

 前半部分の話は聞いてなかったので、セルミナは確認をこめて改めて聞いた。

「ああ。みーのクラスがストリートダンスだってさ」

 セルミナの言葉に緋毬が頷く。

「では、見に行かないといけませんわね」

「ちょっと待って。別に見に行かなくても良いかなーなんて」

「御影、場所は何処でやりますの?」

「ええと、中庭だけど……って聞いてる? 遠回しに拒否したよね、私? 恥ずかしいから見に来ないで欲しいんだけど」

「みー、諦めろ」

 緋毬が優しく御影の肩を叩く。

「ち、千歳君は? 人が嫌がってるのに見ようとなんてし、しないよね?」

 最後の希望とばかりに御影が千歳を見るが、千歳は御影の目線に逃れるように目を逸らす。

「ごめん。僕も見に行きたいかなーって」

「うわぁぁぁぁぁ」

「千歳様。突然ですがカメラを新調しようと思います。よろしいでしょうか?」

「撮る気だ!? 私の黒歴史を記録に残そうとする気だ!?」

「御影様。それは被害妄想です。今まで使っていたカメラが壊れたため、やむを得ずです」

「ほ、ほんとに? 私の写真を撮るつもりはないと?」

「はい。買うのはビデオカメラです」

「動画で撮る気だぁぁぁぁ!」

「本来の目的は千歳様の執事姿です。ついでなのでご安心ください」

「ついでで撮られるのも何か嫌だぁぁぁ!?」

「あら、千歳は執事服を着ますの?」

 両手で頭を抑えながら首を振る御影を放っといて、セルミナは千歳に聞く。

「あ……うん。僕のクラスはメイド&執事喫茶なんだ」

 御影を放っといていいのかなと思うが、律儀に答える千歳。

「あら、楽しそうですわね」

「うちのクラスはアリアがいるだろ。だからせっかくだからクラスでやろうって話になってな」

 アリアはメイドロボである。そこからの繋がりでということでだ。

「なら、緋毬はメイド服を着ますの?」

 セルミナは興味津々とばかりに顔を輝かして緋毬に聞く。

 だが、緋毬は首を振った。

「わたしも千歳と同じ執事服だ。裏方やりたかったけどな、千歳に引きずり込まれたんだ」

「だって緋毬。僕をホールにさせておいて一人だけ逃げようとするんだもん」

 どうやらクラス内の役割決めですったもんだがあったらしい。

 緋毬の服装がメイド服ではなく執事服なのは攻防の末の妥協点なのか、千歳とお揃いにしたかったのか。真実は彼らのみが知っている。

「うぅ……私もひーちゃんと同じクラスが良かった……。居残り訓練はもう嫌だぁぁ……」

 そして、一人さめざめと泣いている御影を励ます者はなし。

 文化祭当日、御影の勇姿は4台のカメラによって撮られたそうな。

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