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けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
86/129

86話 冷静になっては駄目な話

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

「御影。何をしてますの?」

 御影は普段、教科書やノートを広げ勉強しているのだが、今日は趣が違っていた。

 携帯をずっと弄っていたのである。

 それを不思議に思い、セルミナが問いかけたのだ。

「ん? ゲームを始めてね。スタミナがなくならいから終わらないんだ」

「スタミナ? ゲームが終わらない?」

 首を捻るセルミナに御影も首を捻る。

 あれ、意味が通じていないの、と。

「セルミナ君はスマホゲーをやらないのかい?」

 スタミナというのはゲームでよくある設定の一つで、ダンジョン等に入る時にスタミナを一定値消費することで挑戦出来るというものだ。スタミナは時間経過で回復するのだが、プレイヤーのレベルが上がることでフル回復出来たりする。御影がゲームを止めれないのもこのためだ。レベルアップのお陰でスタミナが回復して消費出来ないのだ。

「ええ。あんなのは子供のお遊びですわ。それに所詮、携帯のゲームですわ。緋毬がやっているパソコンやゲーム機ならいざしらず、携帯でわざわざゲームをやる意味がわかりませんわ」

「ふふっ、そう馬鹿にするものでもないよ」

 何処かデジャヴを感じながら、御影は苦笑しながら自身の携帯をセルミナに渡す。御影もやってみたらハマってしまったのだ。

「何ですの、もう」

 と言いながらも、セルミナは渡された携帯を見る。

「見てみなよ、セルミナ君。キャラが可愛いんだ」

「え!?」

「キャラが可愛い!」

「ええと、御影?」

「キャラが可愛い!」

 同じ言葉しか喋らないゲームのキャラクターのように御影はキャラが可愛いを連呼する。

「ええと……」

「可愛い! ならばセルミナ君もプレイだ!」

「…………わかりましたわ」

 可愛いの圧力に負けて、セルミナは御影の助言のもとゲームをプレイする。戦闘シーンはキャラクターがコミカルに動いて楽しかった。

「ええと、た、確かにキャラクターは愛らしいですわね」

「そうだろう!」

 御影はムフーと鼻を大きく膨らませ腕を組む。

「キャラクターが可愛いのはわかりましたわ……それでゲームとしては面白いですの?」

 御影に言われるままプレイしたセルミナだったが、わかったのはキャラクターが愛らしいだけで肝心のゲームが面白いのかはよくわからなかった。

「う…うん。ゲームとしてはバランスがちょっと変だけど面白いよ! 面白い!」

 面白いはまるで自分に言い聞かせるかのように連呼する。

「プレイヤーのレベル上限が100ちょっとしかないけど、今やっている期間限定イベントを走ったら90ぐらいは軽く上がるからね。初心者にもおすすめだよ」

「それって逆にどうなんですの……」

「重課金、無課金関係なく等しいスタミナ数値であ、遊べるこ、公平なゲームなんだ!」

「ええと……そうなんですの。でも、上限が100ちょっとならばすぐに上限に達してしまうんじゃないですの?」

 御影の頬に流れる汗を見て、セルミナはツッコミを入れるのは止めとする。代わりに疑問に思ったことを御影に投げかけた。

 御影はセルミナに追求されなかったことに安堵しながら、胸を張ってセルミナの疑問に答える。

「大丈夫。100レベル超えると尋常にないくらい経験値求められるから全然レベルが上がらないんだ!」

「それはそれで問題ある気がしますわ」

「でも、キャラが可愛い!」

「あ、そこに戻るんですの……」

「ただ、キャラクターの当たる確率が1%しか存在しないのが辛い」

「1%!? 当たりますの、そんな低確率!?」

 1%となら100回やったら1回は当たるだろうと思ってしまうだろう。だが、現実は違う。厳密に計算するともっと下回るのだ。

「い、いや語弊があるね。キャラクターが当たる確率はもっとあるよ。ただ、一番良いレアが当たる確率が1%というだけなんだ」

「そうなんですの。びっくりしましたわ」

「ふふふ。キャラクターがいなかったらパーティーを組めなくて遊べないからね。運営もそんな酷いことはしないよ」

「一番良いレアじゃないとストーリーがクリア出来ませんの?」 

「いや、そんなことは無いよ。そこはゲームバランスがちゃんと調整されていてね。普通のレアでもクリア出来る難易度さ」

「なら問題はないので……」

「だけど、だけど一番良いレアが一番可愛いんだ!」

 セルミナの言葉を食い気味に御影が叫ぶ。

「どんどん新キャラが追加されるんだけどね。全員可愛いんだ。だけど全員一番良いレアで当たる確率が1%。冷静に考えれば恐ろしい以外何物でもないよ!」

 そういう御影だが、パーティーには一番良いレアのキャラクターばかりいる。

 当然、緋毬と千歳のお陰だ。二人に当てて貰ったのだ。

「もう、私はひーちゃんと千歳君から離れなくなってしまったよ!」

「何で緋毬と千歳が出てきますの!?」

 セルミナはいきなり出てきた名前に戸惑うばかりだ。

 混乱しているセルミナの肩を御影ががっしりと掴む。

「さぁ、セルミナ君もスマホゲーを始めて見よう! ひーちゃんと千歳君から離れなくなるから!」

「きゃあああぁぁぁですのぉぉぉぉ」

 セルミナの悲鳴が物理実験室に響く。

 そんな二人の一コマ。

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