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けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
85/129

85話 お客さん、確率ですからねぇ。文句を言われても

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

「ねぇ、緋毬。お願い」

 千歳はそう言いながら緋毬に自分の携帯を渡す。

「ん……と、出たな」

 緋毬は読んでいたゲーム雑誌を閉じずに、千歳の携帯を一瞥して無造作に数回タップするだけで千歳へ返した。

「やった! 流石、緋毬」

「君達は何をやってるんだい?」

 二人のやり取りを何気なしに見ていた御影が口を出した。

「ええと、ガチャを緋毬にやってもらったんです?」

「ガチャってゲームの?」

 ゲームによって違うが、ガチャとは石やらダイヤやらメダル等のアイテムを使ってキャラクターや装備を手に入れることだ。

 手に入る中身はランダムであり、上手く行けば一回で高レアを手に入れる事ができる。逆に、何回やっても手に入ることが出来ないこともありうるのである。

「ええ。千歳様はこの年になってもガチャを引くのが怖くて緋毬様に引いて貰っております」

 アリアはほんとにこの子はと言った感じに嘆息して、頬に手を当てる。言葉とは裏腹に顔には慈愛が満ちていた。駄目な子ほど可愛いというやつだ。

「違うからね! 変なこと言って誤解させちゃ駄目! ええと、緋毬に引いてもらうと良いのが出ることが多いんです」

 ほら、と自分の携帯を御影に見せる。

 携帯の液晶にはSSRと描かれたキャラが輝いていた。

「お礼は口座に振り込んでおけよ」

 緋毬はゲーム雑誌を読み終わり、話に加わる。

「感謝はするけど、それは嫌」

「このケチが」

「だって緋毬にお金を渡すとゲームに変わっちゃんだもん。もっと違うことに使おうよ」

「スマホゲーに費やすお金を別のゲームに費やすだけだ。むしろ、等価交換とも言えるね、うん。千歳も良いキャラ当たって、わたしも違うゲームが出来てWin-Winの関係だ」

「緋毬様のガチャ運は無課金プレイでも重課金プレイヤー並の充実度となっております」

「それは凄いね。今まで知らなかったよ」

「あまりひけらかす気がねーからな」

「そうなのかい?」

 何でまたと聞くと、緋毬は眉を立てて言う。

「毎回あてにされるし、良いの出なかったら文句言われるからな。仲いいやつならまだしも、あんま話したことない奴らに無心されるなんて嫌に決まってる」

「なるほど。考えてみればそうだね」

 ガチャは乱数であり、確率だ。

 当たるも八卦当たらぬも八卦。確実に当たるなんてことはない。頼るだけ頼っておいて結果が悪ければ文句を言うのは最悪以外何物でもない。

「今回も千歳に脅されて仕方なく、な……」

 憂いを秘めた表情で緋毬は言う。

 窓の外を見つめ上を向く緋毬は何かに耐えてるようにも見えた。

「違うよね!? リアクションなく引いてくれたよね!? 何で無理強いさせた感じ出してるの!? さっき仲いいやつは違うって言ったじゃん!」

「千歳とわたしが仲がいい……?」

「そこ、疑問視しない!」

「つか、千歳もガチャ運良いだろ。自分で引けよ」

「あれ、そうなのかい?」

「はい。千歳様もSSRレアを当てる確率は緋毬様に負けておりません」

「なら、何でひーちゃんが引いたのだい?」

 そう聞くと、千歳は酸っぱいものを食べたかのように眉を寄せて、口をすぼめる。

「僕が引いちゃうと偏りがあって……」

「偏り?」

 御影の言葉に千歳は返さず、自信の携帯を御影に見せた。

「どれどれ……ってうわっ!」

 千歳の携帯を見て、御影が悲鳴を上げる。

「そうなのです。千歳様は何故か男キャラに好かれておりまして。保持ユニットの半分以上が男で埋め尽くされております」

「それに、女性キャラが当たったと思っても欲しいのとは別のキャラクターだし」

「千歳はガチャ運いいけど、全く違う方向に発揮されるものな」

「しかし、パット見怖いね……上半身が裸のキャラが多いし」

 故意でやってるとしか思えない揃い具合だ。

 事情を知っていないと、怪しすぎて人様にお見せできないほどに。

「普通、スマホゲーは女キャラの比率がたけーのにな。千歳は毎回こうなんだ。わたし的には千歳の心に秘めた願望がこうやって形になってると思ってる」

「そんなこと思ってたの!?」

「そうなのですか、千歳様! 言ってくれれば、このアリアがご用意しましたのに」

「何を用意するの!? 怖いよ! 違うからね、普通に女性キャラの方が好きだからね」

「千歳は二次元の女キャラが好きと」

「そこ、曲解しない!」

「そうなのですか!? 言ってくれれば、そちらもご用意しましたのに」

「もって何!? 男の人!? 男の人も用意するの!?」

「ちょっと、私もスマホゲーに興味が出てきたよ」

 千歳の混乱具合を肴にしながら、御影は自身の携帯にゲームをインストールし始めたのであった。

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