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けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
82/129

82話 開けてはいけないあの紙

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

「恐ろしいことに気がついたんだ」

 緋毬がポツリと言ったことが始まりだった。

 パソコンで遊ぶのを辞めて、皆の方へ向いた。

「ひーちゃん、どうしたんだい?」

 御影も顔を上げて勉強する手を止めた。

「恐ろしいことって?」

 御影と一緒に勉強していた千歳も続く。

「あれを見てほしい」

 眉間にしわを寄せて、緋毬はある方向を指差す。

 御影と千歳は顔をそちらの方へ向かう。

 そこは物理実験室の端、物置と化してる畳のエリアだった。

 緋毬が指差す先はそのエリアの中にある真っ白の箱。

「お題箱?」

「うむ。そうだ」

「ひーちゃん、お題箱の何が怖いんだい?」

「論より証拠。見た方が早い。アリア」

 緋毬がアリアを呼びかけると、アリアは一礼してお題箱を取りに行く。

「時々、ひーちゃんの方が様になっていてアリア君の主人かと思う時があるよ」

「あ、僕も思います。命令が自然な感じ何ですよね」

「千歳君、納得しちゃうんだ……」

「千歳はあんまり命令しねぇからな」

「その分、たまに命令する際はゾクゾクしますけどね。アリアは心待ちにしております」

 そう言ってアリアは皆の前にお題箱を置いた。

「千歳君の男らしい姿見てみたいな。どんなだろ?」

「そんな姿ないですよ! ほら、お題箱来ましたよ!」

「誤魔化した」

「誤魔化したな。千歳的には恥ずかしさもあるのか」

「勇ましい姿の後に恥ずかしがる千歳様の挙動にアリアの乙女回路がキュンキュンします」

「止めて! お題箱の話をしようよ! 緋毬! お願い!」

「ちっ、しゃあねぇな」

 千歳の懇願には弱いのか緋毬はすぐに話を元に戻した。

「みー、このお題箱見てわからないか?」

「ん? 別にどうも…………ってもしや増えてる?」

 御影は穴を覗きこみ、何かに気づいた。お題箱を手にとって確認する。

 お題箱を持ち上げるとカサカサっと紙が重なりあう音が聞こえた。

 その聞こえる音の量と手に持った箱の重さが以前と違うのだ。

「ああ……増えてるんだぜ、これ」

 緋毬は信じられないものを見るかのようにお題箱を見る。

「でも、不思議ではないのじゃないかな。ほら、研究所繋がりでアリア君が入れたとか」

「それがな……そうじゃないんだよ」

「え?」

 皆の視線がアリアに集まる。

 アリアは皆の視線に頷いて、

「ええ。アリアはお題箱に関しては何も指示はされていません」

 自己の関与を否定した。

「じゃあ、どうやって……」

「おそらくだが、研究所の人間がここに来て入れたっぽいな。それしか考えられない」

「しかし、ひーちゃん勝手に学内に入るとか犯罪だと思うのだけど」

「バレなければ犯罪じゃないとか素で思ってる危険人物がいるのがうちの研究所だぞ!」

「アリアとしては、ここの教職員を買収してお題箱に入れさせた可能性を推します」

「どっちにしても恐ろしいね。何が目的なんだろう?」

「目的っていうか、わたし達がびっくりするのを期待してるんだろうな」

「くだらないことに命をかけたりするからね、あそこは……」

 緋毬と千歳は揃って苦い顔をする。

「本人達は少年心を忘れないためだと言っておりましたね」

「わたし達に迷惑かけんなよと言いたい」

「しかし、ひーちゃん。お題箱の中身が増えたけど、どうするんだい?」

 言外にほっとくのかいと意味を込めて御影は聞く。

「放っとくとお題が溢れそうなんだよなぁ」

「そ、それは嫌だね……」

 その光景を想像して、御影はげんなりする。

「じゃ、じゃあ、今から引いてみるかい?」

 それならばと御影は提案すると。

「しかし、お題箱に入ってる紙はまだアリアが検閲しておりません。安全が確保されるまで引くのは止めておいた方が懸命かと」

「安全って……」

「アリア、今まで変なお題はどのくらい入ってた?」

「おおよそ二割程度かと」

「よし、止めよう!」

 アリアの言葉を聞き、御影が両手をクロスさせてバツ印を作る。

 緋毬と千歳にしても反対する意義がないので従おうとしたのだが、

「あら? 今日はお題箱ですの? 引かないのでしたら、わたくしが引きますわ!」

 それまで漫画に没頭していて話を聞いていなかったセルミナがにゅっと顔を出し、お題箱に手を入れた。

「あ、おい」

 緋毬が止めようとするが、遅かった。

 無残、お題が場に降臨する。

「出てきましたわ…ええと『千歳が裸ネクタイで……』」

「ストップ! セルミナさん、ストップ!」

 検閲していないお題箱は危険。

 これがけんぽう部の暗黙の了解となった。

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