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けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
75/129

75話 千歳様ドギマギ作戦

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

 そこにアリアと千歳が居た。

「千歳様。実はアリアは迷っています」

 千歳に温かいほうじ茶を出し、アリアは自分の主人である千歳に告げる。

「ん、何を迷っているの?」

 湯のみを両手に持ち、ズズズとほうじ茶を飲みながら千歳は聞く。

「アリアは実はキャラが薄いのではないかと」

「ぶっ……」

 千歳は思わず飲んでいたお茶を吹き出してしまう。

「な、な、何を言ってるのアリア? え、冗談? ネタ?」

 思わず混乱して、変なことを言ってしまう。

 アリアはその言葉には反応せず話を続ける。

「けんぽう部で皆さんと出会い、一緒に過ごして数ヶ月。いえ、もうすぐ半年ですね」

「う、うん」

 もしかして真面目な話かなと思い、湯のみから手を離し佇まいを整えて話を聞く千歳。

「けんぽう部は緋毬様、千歳様、御影様、というメンバーにアリアが加わりました」

 順番的にそうだよねと千歳は頷く。アリアのメンバー参加は最初から決まっていたが話だが、研究所での検査があったせいで加入が遅れたのだ。

「アリアは皆様とは種族が違います。メイドロボというアンドロイドです」

 アリアは自分の耳にあるセンサーを触りながら言う。そのセンサーはメイドロボであることを特徴づける部品。初期のメイドロボには意味があった部品だが、改良が進むごとに意味を失っていき、今ではメイドロボであることの目印の装飾品としか意味をなさなくなった。

「これはアリアが感情を得ても変えられない設定です。生まれが違うのは」

「うん……」

 アリアはアンドロイドだ。しかし、人間としての感情がある。

 だが、それだけだ。

 感情を得ても、アンドロイドであることの事実は変わらないのだ。

 少ししんみりとした空気が流れる。

 どれだけ願おうが種族を変えれない物悲しさがそこにはあったのだ。

 暫しの沈黙の後、アリアは口を開いた。

「そこで、アリアは思いました。もしや、けんぽう部に入ればアリアの時代が来るかもしれないと」

「え……」

 千歳が絶句する。

 さっきまでのしんみりした空気をぶっ壊す一言に。

 意味がわからず止まる千歳を尻目に、アリアは語る。

「アリアだけが種族が違うのです。それもここでは制服ではなくメイド服。この希少性! 周りが制服という没個性の集団の中で唯一のコスチューム!」

 テンションの差についていけない。

 同じ話をしてるはずなのに、会話がズレているのだ。

「あ、あの……意味が」

 しかし、アリアは止まらない。ノンストップ。

 身振り手振りを使い千歳に説明する。

「普段クラスの中では有象無象のクラスメイト達が邪魔してアリアにアタック出来なくても、けんぽう部というアリアを身近に感じれる空間なら話は別。千歳様はご奉仕するアリアメイド服バージョンにドギマギとか想像してたのに」

「ツッコミたい! 凄くツッコミたい」

「そう、アリアの中にツッコミたくなるのです!」

「違う意味だよ!」

「なのに、あの吸血鬼様という刺客が邪魔をしたのです」

「セルミナさん凄い言われ様!?」

「人外というアドバンテージを引っさげて、けんぽう部に入ってきたのです」

「うん。吸血鬼って言うのは秘密だからね。そんな意気揚々な感じではなかったような」

「そして、吸血鬼というのに血を飲みもせずお菓子を食いまくる生活」

「喜々としてお菓子を与えてるのはアリアだと思うけど」

「外見だけでは美しい西洋人貴族風なのに、吸血鬼で腹ペコという属性。許せません!」

「僕はアリアがよくわかんなくなってきたよ」

「そして、それに触発されるように御影様の化けの皮が剥がれていきました」

「表現が間違ってるけど、合ってるような気がして指摘出来ない」

 思い返せば、御影は綺麗で優しくて知的な女性だった。そうだったのだ。

 千歳は過去を思い出すと、渋面になってしまう。

 アリアはその顔を見て我が意を得たりと語勢を強くする。

「時を経るごとに残念になる御影様。だが、それだけではなかったのです」

「え?」

 どういう意味だと、止まる千歳。

「御影様は季節ごとに髪型を変えるようになったのです」

「あぁ……」

「季節が変わるごとに自身の武器を捨て、新しい物を試していく浅ましさ。キャラの個性とは何なのでしょうかと問いたくなってきます」

「僕はアリアに問いたくなってきたよ」

「このような事情により、二人のキャラが濃くなっていき、相対的にアリアの影が薄くなっていくのです! 大問題です、千歳様」

「はぁ……」

 真面目に聞いて損したという言葉が千歳の脳内に流れる。

「というわけでアリアは明日から二学期の間はガータベルトを装備しようかと思います」

「どういうわけっ!?」

 千歳の絶叫が物理実験室に響く。

 だが、その声に答える者はいなかった。

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