74話 秋の御影と髪型と
今日も今日とて部活の日。
場所は物理実験室。
そこに御影と千歳が居た。
「千歳君、何か気づいたことはないかな?」
御影は瞳を輝かせながら身を乗り出して千歳に聞く。
「ええと……」
御影の勢いに押され、千歳は言葉が詰まる。
「ほら、ほら。何かいつものわたしと違うというかね?」
餌を待てと言われた子犬のように何かを期待する御影。
その勢いに若干だが引いた千歳なのだが、そんな千歳の態度には気がつかずに小刻みに頭を振ってアピールする御影。
頭が動く度に左右に纏められた髪が揺れる。
「髪型を変えたんですね?」
そんなアピールをされたら嫌でもわかる。いや、千歳も御影を見た瞬間わかってたのだが、御影が言わせてくれなかったのだ。
「ああ!」
御影はむふーと鼻息荒く肯定する。
だが、それだけでは御影は満足出来ない。
女性が髪型を変えたのだ。感想くらいあるだろうと期待しているのだ。それはさながら投げたボールを取ってきて飼い主に撫でられることを期待する子犬のようであった。
「似合ってますよ」
「ありがとう、千歳君!」
千歳の言葉に御影は満面の笑みを浮かべる。半ば言わされたとはいえ、御影の無邪気な笑顔を見ると、言って良かったなと千歳は思った。
似合ってることに間違いはないのだから。
「でも、御影さんがツインテールにするのちょっと意外でした」
「うん。正式にはツインテールというよりツーサイドアップと言うらしいけどね、この髪型は」
御影は自身の髪の一房を撫でながら言う。
ツインテールとは髪を左右一房ずつに分けて垂らす髪型のことである。ツーサイドアップとは頭髪の全てを纏めずに、両側の髪の毛の一部分だけを纏め、残りの後ろ髪は全て後ろに垂らすのだ。
「へぇ、呼び方が違うんですか」
「まぁ、最近はこれもツインテールと呼ぶようになってるけどね」
見方によってはロングヘアにも見えるのでロングヘアの亜種だという主張と、2つにまとめているからツインテールと言うべきだいう主張が争ったりしているが現在ではツインテール学派が優勢になっており大衆もその説を受けいれてるのが実情だ。
「色々種類があるんですね、ツインテールは」
ツインテールのことを詳しく説明され、感心する千歳。
「ふふっ、秋の間は色んな種類のツインテールにしようと思うから楽しみにしてくれたまえ」
「はい!」
千歳の元気の返事に御影は頬を緩むのが自分でもわかった。
男の子に喜ばれて嬉しいのだ。
胸の鼓動が少し早まるのを感じながら御影は言う。
「じ、実は秋っぽく三つ編みにして文学少女的な雰囲気にするか迷ったんだが、ここまでツインテールに期待されるならこれで良かったよ」
「それはそれで見てみたいですね」
何が秋っぽいのかはよくわからないでの置いておいて、千歳は御影の架空の三つ編み姿を想像してそんなことを言う。
御影はその言葉に欲張りさんめと千歳に言う。
だが言葉とは裏腹に機嫌は良い。
「う、うん……なら今度一回してこようかな」
「楽しみにしてます」
「ふふっ」
千歳の言葉に自然と口がほころぶ。
「でも、ツインテールにすると幼く見えますね」
これは御影だからということではない。ツインテールの魔力なのだ。万人の女性の幼い部分を強調してしまうのだ。
「くくっ、普段は大人っぽいお姉さんとのギャップがいいだろう?」
「え?」
「何故、そこで驚くんだ!? ツインテールは幼く見えるだろ?」
「はい」
「なら、普段大人っぽい私がツインテールにすると幼く見えるだろ?」
「え?」
御影は何故だぁぁと頭を抱える。
「御影さんはわりと子どもっぽいなと最近よく思うんです」
「ええっ!?」
「そりゃ最初は大人っぽいなと思いましたけど、会話するうちにね……?」
「グサッてきたよ! 最後、言葉を濁す部分が特に!」
「で、でも悪い意味ではないですよ。良い意味で幼いかなと」
「そのフォローが一番痛いよ!」
物理実験室に御影の悲鳴が響く。
今日もけんぽう部は平和なのである。




