73話 休み明けには疲れを癒やす休みが欲しい!
3章タイトルは秋から冬へですが、始まりは二学期。
今日も今日とて部活の日。
場所は物理実験室。
そこに緋毬と千歳が居た。
「あーーーー、休みがほしいいぃぃ」
緋毬は机に顔をのせて投げやり気味に呟いた。
「休みが欲しいぃって……昨日まで夏休みだったじゃん」
頬をポリポリと掻きながら困った顔でそう言うのは緋毬の幼なじみである千歳。
緋毬は千歳の正論に顔を机にのせたままキッと目を細めて睨む。
「おい、千歳。今何月か言ってみろ」
「八月の下旬だね」
千歳の返答を聞き、緋毬はガバッと顔をあげる。
「学校始まるの早すぎるだろ! 九月にしろよ」
「昔はそうだったらしいね」
「何で早まってるんだよ! 夏休みは暑くて授業に集中出来ないから休みになったと聞いたことがあるぞ。何で温暖化なのに早まってるんだよ! 逆だろ、逆!」
外を見れば照りつける太陽が上空に鎮座していた。
本日の最高気温36度。
まごうことなき猛暑日である。
「でも、今は教室にクーラーがあるよね」
「ぐっ……」
千歳の言葉に緋毬の勢いが止まる。
外の気温が何度であれ、クーラーがあると室温は一定に保たれるのだ。
物理実験室にいる緋毬は汗一つかいていない。
「現にクーラーのない地域とかは二学期が始まるのは九月かららしいよ」
「マジか!?」
千歳はうんと頷く。
「ふぁー、夏休みの短縮は全国区的な話と思ってた。そう考えると、ずりぃな他の地域」
「ずるいって……」
そういう話なのかなと千歳は首を捻る。
むしろクーラーある方がずるいような。
だが、緋毬は千歳に構わず話を続ける。
「だってそうだろ? ゲームを一週間ほど長く出来るんだぞ。睡眠時間等を抜きにして大体140時間もゲーム出来るぞ」
「計算式おかしいよ! 一日20時間はゲームしてることになるよね!?」
「何言ってるんだ、千歳。ゲームに20時間、睡眠時間3時間、風呂やら、トイレ等の時間に1時間で完璧な計算じゃないか」
「えぇぇぇぇ……なら食事は!?」
「ゲームをしながら食べる。一時間はコンビニで食料調達の時間を計算に含めてある」
「凄い不健康だよね、それ!?」
「廃ゲーマーに健康を求めんなよ。健康を求めてたら廃ゲーマーになれないぞ」
「ならなくて良い気がする」
正論だ。
しかし、これは価値観の違いなのでどうしようもない部分がある。
漢には変人扱いされようと目指す道を突き進まなくてはならない時があるのだ。多分、きっと。
「まぁ、私はそこまでの人物になれない半端もんだからな。10時間くらいか、ゲームに費やせるのは」
「廃ゲーマーを神聖視するのは止めようね。一般的にみたら、おかしい人達だからね」
「わかってる。俗世を捨ててゲームの世界にのめり込むのは仏の道を歩むと同意語だからな」
「仏教関係者がそれ聞いたら激怒しそうだね。っていうか、緋毬全然わかってないよ。なんか廃ゲーマーを尊敬してない!?」
「しかし一日10時間で計70時間もあれば、ゲーム2、3本終わらせるなぁ」
「多いのか少ないのかわからない数字だね」
「記念碑があるからな。昔のゲームみたいにクリアすれば終わりじゃないんだ」
「記念碑?」
聞き慣れぬ言葉が出てきて聞き返す千歳。
記念碑。英語で言えばトロフィー。
緋毬は、んーと口をすぼめかせて説明する。
「わかりやすく言えばやりこみ要素だな。例えば、難易度ハードをクリアとか条件があって、それを達成すれば記念碑が手に入る。ゲームを隅々までやらないと記念碑が手に入らないゲームもある」
「ふーん。大変なんだね。記念碑が手に入ったらどうなるの?」
「どうにもなんないな。鑑賞して満足するだけだ」
「どうにもなんないんだ!? 何かゲームの特典とかつかないんだ!」
「ああ、基本そんなものはない。記念碑を集めるのは自己満足に近いからなぁ。所詮、やりこみ要素だし」
「じゃあ、記念碑集める意味あるの?」
もっともな質問を千歳は投げかける。
緋毬は千歳の疑問に肩をすくめ、
「記念碑が揃ってないと落ち着かない気がするのが一番の理由かな。あと他のプレイヤーからも見られるから、コイツすげぇって思われても、コイツゲーム下手なんじゃねとか絶対に思われたくない!」
そう答えた。
緋毬の顔に何処か誇らしげなものを感じるのは気のせいであって欲しいと千歳は思った。
「ゲーマーって……」
やりこみをするのは自己満足ではあるが、自慢をしたい気持ちも出てくるのだ。
それがゲーマーの習性なのだ。
3章から5コマになります(文章増加)
1話、文庫換算で69~85行ぐらいになると思います。
では、よろしくお願いします。




