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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
72/129

72話 そんな夏の日のこと

 魅澪に逢った帰り。

 タクシーが千歳の家に止まった。出てきたのはアリアとセルミナと千歳。

「やっとつきましたわね。本当に今日は疲れましたわ」

 髪を優雅にかきあげながらセルミナは言った。

「なぜ、ナチュラルにセルミナ様がいるのでしょうか」

 場所は千歳の家の前。けっしてセルミナの家の前ではない。タクシーなのだから、そのままセルミナを乗せて自分の家まで行けばいいではないか。

「だって今日は疲れましたもの。今日は千歳の家に泊まりますわ」

「ええっ!?」

 雨が降ったから雨宿りするといったノリでセルミナは男の家に泊まると言う。

「それに千歳を信頼してますもの」

 セルミナはニヤリと笑いながら挑発的に流し目を千歳に送る。

「う、うん……」

 そう言われたら応えなければいけないのが男だ。

「千歳様は媚薬と対猛獣用の手錠と首輪を懐から取り出し始めた」

「取り出してないよ!」

「だ、騙されませんわ! ね、ねぇ、千歳?」

「何でセルミナさん震えながらこちらを見るの!? 信頼は!?」

「男の欲望はかくも恐ろしいということです、千歳様」

「うまいことまとめようとしてるけど、原因になったのはアリアのせいだよね?」

 ワイワイと騒ぎながら千歳の家に入っていく。そして、一団がリビングに入った時。

「おかえり……ってセルミナもいるのか」

 緋毬が出迎えたのである。


 千歳とアリアが夜食の用意を。その間に緋毬とセルミナがソファーに座り話し合う。

「何で緋毬がここにいますの? ゲームはよろしいの?」

「それより、肝試しの結果が聞きたくてな。わたしとしてはセルミナがここに居る方がびっくりだがな」

「わたくしはここに泊まりますもの」

「……そうか」

 男、それも千歳の家に泊まるのだから何か言われるかとセルミナは思ったが、緋毬は少し驚いただけで何も言わなかった。セルミナは何か拍子抜けした気分だ。

「で、魅澪に逢ったんだよな?」

「逢いましたわ。ええ、目にした今でも夢うつつみたいですけど」

 幽霊蔓延る森。不思議パワーで電化製品が動く家。そして魅澪という恐ろしい力を持った鬼。もし、昨日のセルミナに言えば鼻で笑われるだろう。そのぐらい現実離れした出来事だった。

「何か得るものがあったか?」

「やっぱり考えがあって魅澪さんに逢わしたのですね」

 緋毬の問いには応えず、別のことを言うセルミナ。

 セルミナの言葉に緋毬は頷く。

「ま、けんぽう部の面々が仲良くなる下準備だな。いつかみーに打ち明ける際に楽になる」

「余計なお世話ですわ」

 つっけんどんにセルミナは答える。何故、そこまで世話されないといけないのかという反抗心からきたものだ。

「でも、急に自分は吸血鬼ですって言う話でもないだろ?」

「それは……そうですけど」

「まぁ、今じゃない。それに、みーも皆に黙っている秘密がある」

「御影にも?」

「ああ。中々打ち明けられない事情がある。だからこそ今回の肝試しには呼べなかったしな」

「そうなの……ですの……」

「前に弁当食べた時に言ったよな。秘密の垣根を超えてお互いが仲良く出来たらいいなって」

 緋毬とセルミナが一緒にお弁当を食べた日。確かに緋毬はそのようなことを言った。

「だから、私はセルミナやみーがどう思おうと動くぞ。余計なお世話と言われてもな」

 そう言って緋毬はあくどい顔で笑った。恨むなら自分を恨めと。

 セルミナはそんな緋毬の顔を見て何かを諦めたように嘆息する。

「………ほんとずるいですわ」

 そして、小さく、誰も聞こえないくらい小さく呟いた。

「何か言ったか?」

 だから緋毬には聞こえない。セルミナは何でもないと首を振る。

 緋毬はいずれセルミナの秘密を御影にバラすと暗に言っている。だが、それは緋毬が大丈夫だと判断した時だろう。その時までけっしって言わない。自分達のことを考えて、心をほぐしてから、言うのだ。それがわかってしまったから緋毬を恨めない。

「ご飯できたよー」

 キッチンから千歳の声が聞こえた。

「さぁ、緋毬。食べますわよ。リミット解除して食べまくりますわよ!」

「おぉ……今まではリミットあったのかよ。こえぇな」

 騒ぎながら二人は食卓へ。緋毬とセルミナが少し仲良くなった。

 そんな夏の日のこと。  

これで2章終了です。ちょっと長いお休み入ります。

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