70話 10ペソ26円とお考えください
とある森の開けた場所。
その場所は先程いた道中とは違い。清涼な空気に満ちていた。空気を吸うだけで安らぎを感じる。
そして、その開けた場所には大きな石があった。
その石は鏡餅のような形をしており、高さは人の背丈をゆうに超えるほど高く、大きさはコンビニがまるまる一軒入りそうなくらいの大きさだった。
そこに白髪の幼女が石に片膝を立て座っていた。
絹ように白く滑らかな髪。だが、それよりも目立つ部位がその少女には存在した。
少女の額。そこには一本の角が生えていた。
「ようやく来たか。待ちくたびれたのじゃ」
少女は千歳達を見つけると笑って、石から飛び降りた。
スタッと軽やかな着地音が鳴った。
「魅澪さん、お久しぶりです。あと、お土産のお酒です」
千歳は荷物から一升瓶を取り出し少女、魅澪に渡す。
「くっくっっく、今回は忘れなかったのう」
その言葉に、千歳は気まずそうに苦笑いをする。
「今回はアリアが点検しましたので」
「グッジョブじゃ、アリア」
「この御方が魅澪……さん?」
半ば呆然としながら、セルミナは千歳に問いかける。
「お、新顔じゃのう。わしが魅澪じゃ。鬼神とか言われておる」
一升瓶を抱きながら、右手を上げる魅澪。
種として高位的存在からのフレンドリーな態度に少し戸惑いながら、
「わ、わたくしはセルミナ・フォー・ストラグルですわ。千歳の部活の仲間ですわ?」
自己紹介をした。
「何で疑問形なんだろう」
その自己紹介聞いて、千歳はポツリと呟いた。
「アリアは千歳様がセクハラしたせいではないかと100ペソ」
「してないよ! って何でフィリピンのお金!?」
「あの、千歳。魅澪……さんは元神様で鬼の体を乗っ取ったと先程聞きましたが、どう見ても……」
アリアが語った話は昔話なのだ。
しかし、どう見てもこの女性は幼女なのだ。
魅澪はセルミナの言いたいことがわかったか一度頷いて。
「わしは神代に調伏された鬼じゃ。そして、この姿は三代目の理想の姿に合わせられておる」
「千歳様が幼女が好きすぎるばかりに魅澪様はかのようなお姿に……うぅ」
ハンカチを目に押し当て、アリアは嘆く。
「さらっと嘘つかないでくださいよ! 僕が最初逢った時も、その姿だったでしょ!」
「クックック、三代目をからかうと面白いのじゃ」
「わかります、魅澪様」
普段の部活と雰囲気に変わらぬ雰囲気にセルミナは呆気を取られる。
「まぁ、わしがこんななりなのは力を失ったからじゃ。昔、暴れておった戒めでもある。今はそんなことをする気はないという意思表示じゃ。ここは人も来れぬ場所じゃからな不自由はない。いや、酒を買えんのは面倒じゃが」
「だから、僕達が定期的にお酒の差し入れをしてるんだ」
「そ、そうなんですの?」
借りてきた猫みたいな態度でセルミナは相槌を打つ。そして、ちょっと千歳を引っ張り場を離れる。
「どうしたの、セルミナさん?」
「どうしたもこうしたもありませんわ!? あのお方がどのような存在か千歳はわかってらっしゃるの?」
「どんな存在って……昔は神様で今は鬼?」
自分達が説明した通りの存在だと千歳は言う。
だが、セルミナは常識知らずと千歳を叱責する。
「そういうことを言いたいのではありませんの。あのお方は種として高位的存在ですわ。それを友人のように扱うのは無礼千万ですわ!」
吸血鬼であるセルミナだからこそわかる。あれは逆らってはいけない存在だ。生殺与奪を握っていると言っても過言ではなく、もし魅澪が気に入らなければ呼吸をするかのように自分達を消すことが出来るのだ。
「じゃが、ワシはそのままの態度でいて欲しいのじゃがな。いかに年長者といえどもかしこまった態度で話されれば窮屈じゃ」
ぬっと、セルミナと千歳の下から魅澪が顔を出す。
「ヒッ!」
内緒話を聞かれたことにセルミナは肝を冷やす。顔を白黒させるセルミナに魅澪は笑いながら告げる。
「さて、せっかくの客人じゃ。こんな場所で会話するより落ち着ける場所でしようぞ」
そのまま笑いながらに去って行く魅澪に、セルミナは本日口癖になりそうな言葉をまた言った。
「何なんですの、もう……」




