表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
68/129

68話 幽霊蔓延る場所は まだ日本にあるのです。たぶん。

 今日も今日とて夜が来る。

 場所はとある森。鬱蒼と茂る森の奥をアリアとセルミナと千歳は歩いていた。

「何なんですの、ここは……」

 セルミナは思ったことを言葉に出した。

「何なのですの、ここは……」

 セルミナは再度、同じ言葉を呟いた。いや、呟かずにはおれなかった。

 自分が歩いている場所は森である。足元から感じる土の感触、時折手に当たる枝葉の感触、風が吹くと揺れる木々のさざ波。どの情報を抜き出しても、森の中、つまり自然の中にいるはずなのである。

 なのに、何故、生命の気配がしないのか。

 足元から伝わるのは冷気。自身の足が凍てついてしまいそうなほど暗く冷たいものを感じる。これは土と呼べるものなのか。感触こそは土ではあるが、雪さえも生ぬるく感じるほど冷たく厳しいものを感じる。

 森にしてもそうだ。いくら夜でさえ、虫や鳥、獣に属する小動物がいるはずである。隠れていようが吸血鬼である自分が本気になれば隠し通すことは出来ない。

 何故、ここに生命の気配がないのか。

「っ…………」

 セルミナは思わず首を振る。

 生命の気配がないならいい。そういうこともあるのだろうと無理矢理自分を納得させることが出来るだから。問題は……。

 誰もいないはずなのに、何かがいるような気がするのだ。

 知らず、千歳の服の袖を引くセルミナ。だが、千歳は気がつかない。

「アリア。ちゃんとお酒は持ってきてるよね?」

「はい。以前、千歳様を信じ、信じ、信じ、任すことによって、お酒を忘れてしまったことをアリアは忘れてはおりませぬ。今回はアリアが準備しましたので完璧です」

「言葉に凄い棘がある!?」

 アリアと部活で話すように平和に世間話をしているのだ。

「ひっ!?」

 後方から急に光が差した。

 セルミナが振り向くと、そこには漆黒の闇があるだけで、光源となるものは何もなかった。

「人魂だね。害はないから大丈夫ですよ」

「どうせなら、一瞬現れるだけではなく森全体を照らすべきだとアリアは思います」

「明るくなるけど、それはそれで嫌だなぁ」

「ち、千歳!?」

 勘違いだと自分を無理矢理納得させようとしたところ、千歳とアリアが世間話のようにさっきの事象を語るのだった。

「こ、ここは何なのです!? おかしすぎますわ!」

 ぎゅっと千歳の腕を抱き込みながら、セルミナは強く睨む。

「せ、セルミナさん!?」

「最初に言ったはずです、セルミナ様。ここは死霊の森と」

 セルミナの抱いている千歳の右腕を見ながら、アリアは無表情で言う。

「あ、アリア!?」

 そして、セルミナに負けじとぎゅっと千歳の左腕を抱き込む。

「肝試しとは、セルミナ様のようにきゃーきゃーと騒ぐことであるとアリアは思い出しました。セルミナ様、グッジョブです。女性陣は怖がり、千歳様は頼られグハハハでございます」

「いや、僕……」

「グッジョブではありませんわ! なんなのです、ここは! 生命の気配が感じないのに、猛烈な死の気配だけが濃密にありますわ!」

 千歳が反論しようと口を開いた瞬間、セルミナの罵声が千歳の言葉を遮る。

「ええ、だから肝試しに持って来いの場所だとアリアは判断します」

 アリアはアリアで千歳の腕を抱きながら無表情で答える。

「危険すぎますわ! 幽霊がいるどころではありませんわ!」

 ここに至って、幽霊がいるいないどころではない。セルミナは幽霊という存在が絶対にこの場にいると確信を持って言えてしまうのだ。

 そして、それがどれほど危険があるのかというのも。

「ええ。だから、千歳様から絶対にはぐれないようにお願いします。探すのも面倒ということもありますが、ここの悪霊はやっかいですから」

 アリアはその危険性を十分承知のようだ。セルミナは赤い目を苛烈に輝かせてアリアを睨む。

「なら、なんで……」

「千歳様がおりますから、大丈夫なのです」

 アリアのその一言で、セルミナは肩の力を抜いた。そして、目は蒼く戻る

「はぁ、馬鹿らしくなってきましたわ。慌ててるのわたくしだけですもの。今思えば、来れなかった緋毬と御影が羨ましく思えてきますわ」

 緋毬は急遽、用事があって来れなくなったのだ。安全と言われても怖いこの場所に来れなくて心底うらやましい。

「緋毬様はゲームの発売日を忘れてたそうです」

「緋毬ぃぃぃぃ!」

 そんな理由だったとは。セルミナの怒声があたりに響く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ