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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
66/129

66話 今も昔も続く習慣

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

 そこに御影とアリアとセルミナがいた。

「緋毬と千歳が来てませんわね。今日は来ませんの?」

 放課後になって20分が過ぎようとしていた。

 だが、緋毬と千歳はまだ部室に来ていない。

 用事があれば、欠席するのは自由なので、来ないのなら仕方がないが少し寂しく思うのだ。

「緋毬様と千歳様は日直で遅れて来ます」

 アリアが御影とセルミナの元に紅茶を置きながら、セルミナの質問に答えた。

「前も日直ではなかったかな?」

 先日のラムネ事件を思い出しながら、御影は苦虫を噛み潰した顔で言う。

 緋毬が御影よりラムネの雑学に詳しかったせいで、恥ずかしい思いをしたのだ。

「先日の日直は千歳様。本日の日直は緋毬様なのです。お二人が日直の仕事に当たった場合、もう片方が手伝う決まりとなっております」

「アリア君は手伝わなくて良いのかね?」

 アリアはメイドロボだ。

 メイドロボは主人に奉仕するのが仕事であり、日直の仕事であれば出番ではないか。

「昔からの習慣だそうで、こればっかりはアリアも邪魔出来ません」

 小学校からの習慣で、今も続く風習なのだ。

 アリアが千歳のメイドロボになったのはこの学校に入る少し前のことであり、二人の習慣を邪魔するのは無粋なのだ。

「習慣なら、仕方がないね」

 はぁと溜息をつくアリアと納得がいったと頷く御影。

 だが、わからない人物が一人。

「仕事が減るのに、何で代わらないか理解出来ませんわ」

 合理主義モードに入ったセルミナだ。

「これだから西洋人様は……」

「セルミナ君はもうちょっと漫画を読んで風情を勉強した方がいいよ」

「ええ、ですわ!?」

 アリアは無表情で、御影は困ったものを見るように眉根を寄せてセルミナを見る。

 セルミナは何故か非難されているような気がして、悲鳴をあげる。

「しかし、日直の仕事というと、学級日誌や掃除なのかな?」

 クラスが違うと日直の仕事も微妙に違ったりする。担任によっては日直の当番すらない場合もある。

 御影は緋毬や千歳と同じクラスであるアリアに尋ねる。

「あの、何でわたくしが責められるのでしょうか?」

 と、セルミナが呟くが、話は続く。

「ええ。学級日誌や掃除に時間がかかっているのでしょう」

 学級日誌には、その日授業内容とその日の感想を書かなければいけない。

 そして、書き終わったら担任に届けなければいけない。

「でも、そこまで遅くなるものかな?」

 仕事と言っても、軽いものだ。二人でやれば、尚更早く済む。

 御影の問いにアリアは首を横に振る。

「千歳様がきっちりとやろうする一方、緋毬様がそれに反対しようとて、結果的に遅くなるのでしょう」

 これは真面目、不真面目とはまた違うものである。あえて言うのなら、性質だろうか。

 千歳はあるがままを受け止め、その仕事を真っ当しようとする。緋毬は日直の仕事の本質を見極め、簡略化出来る物は簡略化しようとする。愚直さと合理性。

 どちらが良いのかは、担任によって評価は分かれるだろう。

「結果、遅くなるから面白いものだね」

 緋毬が千歳に文句を言いながらも千歳に付き合う光景がすぐに想像できてしまい、御影の顔に笑みが浮かぶ。

「アリアに代わってもらえばいいですのに」

 セルミナはぼやくが、それが楽しいのだろう。

 例え、仕事が結果的に遅くなろうが、二人であーだこーだ言いながら頑張るのが楽しいのだ。

 だからこそ、今になってもこの習慣が続いているのだろう。

「さて、噂をすればと……」

 廊下から二人の声が聞こえてきた。

「何で千歳は一々詳しく授業内容なんか書くんだ? んなことしても、担任喜ばねーぞ」

「でも、緋毬の授業内容報告って教科書のページ数書くだけじゃん。そっちの方がぱっとみ、わからないよね?」

「でも、最終的に両方明記するってのは今考えればなかったよな」

「だね。かえって遅くなったからね」

 そこで物理実験室の扉が開く。

「ちーっす。千歳のせいで遅れたわ」

「遅れてすいません、って遅れたの僕だけのせいじゃないよね!?」

 二人の登場に。御影とアリアは顔を見合わせた後、互いに笑った。

 そんな部活の始まり。

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