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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
65/129

65話 ペリーから日本に伝来した物だろ?

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

 さんさんと照りつける太陽が上空に鎮座する中、物理実験室のクーラーは太陽に負けじと可動していた。

「日本は暑いですわ!」

 ガラッと戸口を開け、セルミナが物理実験室に入った。

 冷房が入っているのは室内だけで、そこに至るまでの廊下は暑いのだ。

「セルミナ君、お疲れ様。中は涼しいよ」

 御影がセルミナを迎え入れる。

「生き返りますわ~」

 冷房の風が届く場所にセルミナは向かい、冷風を顔に当てる。

「日本の夏はヤバイと聞きましたが、これほどとは思いませんでしたわ。これなら、砂漠の方がマシですわ」

「日本は湿度があるからね。あっちは日光が当たらなければ比較的涼しいと聞くね」

「ええ。日本は日陰であろうと暑いですわ……って御影、貴方何を飲んでますの?」

 御影が手に持っている細長い瓶に興味を示すセルミナ。

「これかい? ラムネだよ」

「ラムネ?」

「本日の飲み物は夏っぽくラムネにしてみました。セルミナ様もどうぞ」

 控えていたアリアが冷蔵庫からラムネを取り出し、セルミナに渡す。

 どうやらセルミナはラムネを見たのが初めてのようだ。上へ下へと興味深そうにラムネの瓶を見る。

「これ、どうやって開けるのですの?」

 キャップシールを外した所、瓶の蓋が2つ取り出せたはいいが、ラムネの口にビー玉が詰まっており飲めないのだ。

「そこの突起がついた蓋があるだろ。そう、それ玉押しって言うだけどね、それをラムネの口に押し当てるんだ」

 恐る恐るといった様子でセルミナは玉押しをビー玉に押し込む。

「ひやっ!?」

 ポンとビー玉の外れる音と同時に、シュワーとラムネの液が上がって来る。

「驚きましたわ」

「さて、これで出来がりだ。セルミナ君、飲んでみるといいよ」

「では……ってビー玉が邪魔で飲めませんわ!」

「セルミナ様。瓶のくびれのくぼみがありますでしょう。そのくぼみにビー玉を引っ掛けるようして飲むと、ビー玉は飲み口を塞ぎません」

 言われたようにして、セルミナはラムネを飲む。

「うう……美味しいですけど、少し飲みにくいですわ」

「それが風情ってものだよ。セルミナ君。暑いこの時期に爽やかな物を少しづづ味わうのが夏の楽しみというやつさ」

「なるほどですわ」

 一度に飲み切ることは難しい。また飲む際に、ビー玉と瓶とがぶつかり合う音が風鈴のような清涼感を与える。

「しかし、瓶にビー玉を入れるとは日本人の風情に対する心に驚かされますわ」

「いや、それは元々日本発祥ではなくイギリス発祥なんだよ」

「え、そうなのですの!?」

 セルミナが驚愕の声をあげる。御影はセルミナの驚きにふふんと鼻を膨らまし、口を開こうとした所で、

「昔はコルク栓が主流でしたが、コルク栓では乾燥による漏れと気圧差でガスが抜けるという問題がありました。そこでイギリスの会社がビー玉を使用することによって、栓をする方法を開発したのです。当時、ビー玉も瓶も高価であり、この方法なら両方一緒に再使用できるという当時とは画期的なアイデアでした」

 アリアに説明を奪われたのだった。

「うぅ……せっかく、知ってる知識だったから、知的キャラアピールしたかった」

 打ちひしがれている御影をよそに、アリアとセルミナの会話は続く。

「へぇ、ですわ。なら中のビー玉は取りだせないのですわね」

 再使用を前提として作られているなら、中のビー玉は取り出せないはずだ。

「昔は瓶を割るしか方法はなかったのですが、今はキャップが外せるようになっていまして、そこから取り出せるようになっております」

 今となってはビー玉は安価だ。それに中のビー玉を欲しがる人も多い。企業はその人達の為に取り出せるようにラムネ瓶を作っているのだ。

「うぃーっす。日直疲れたぁ」

「暑いですねぇ」

 戸口が開いた。

 遅れてやってきたのは、緋毬と千歳。日直の仕事で遅れたのだ。

「ひーちゃん、千歳君! ラムネについての豆知識を教えてあげよう!」

「うお、何だ、いきなり!?」

 御影は自分の知識を披露出来る時を逃さないように二人に襲いかかった。

 だが、緋毬は御影よりラムネの知識が詳しいことを、御影はまだ知らなかった。


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