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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
64/129

64話 ついカッとなってやった。反省はしてません

 今日も今日とて朝が来る。

 場所は千歳の家。

 そこにアリアとセルミナと千歳がいた。

「オーホッホホホ。ついにこの時が来ましたわ。一日千秋の思いで待ち望んだ日が!」

 テンション高く、オホホと口に手を当てながら言うのはセルミナ。

「一日千秋と言いますが、実際一日も経っておりませんが。というより、この吸血鬼様は朝早くから何で来てるのでしょう」

 無表情ながらも、はぁと頬に手を当てながら言うのはアリア。

「連絡した通りですわ。せっかくカレーパンを作って貰えるのでしたら、出来立てを食べたいのですわ!」

 本当は学校にカレーパンを持っていく約束だったのだが、それでは待てないとセルミナが文句を言ってこうなったのだ。

「まぁ、いいですが。アリアはこれから揚げてきます」

 カレーパンの最後の工程。揚げ作業が残っているのだ。アリアはキッチンへと向かう。

「朝からカレーパンを食べれるのは幸せですわ! 日本に来て良かったですわ!」

 くるくると舞いながら、セルミナは喜びの声をあげる。

「そこまで喜んでくれると、アリアも作りがいがあると思うよ。昨日から頑張ってたもん」

「あれ、ですわ? カレーパンは昨日御影が作ったと聞きましたが?」

 昨日の調理は御影が頑張ったと聞いており、アリアは基本調理を担当していないと聞いている。

 セルミナの疑問顔に千歳はああと気がついた。話が微妙に食い違ってると。

「昨日の作ったカレーパンは全部食べたよ。今作ってるのはアリアが一から作ったやつなんだ」

「何ですって?」

「カレーパンはパンだから、揚げておかないと保存出来ないんだ。だから、昨日全部食べちゃった」

 揚げたてを食べたいと言ったのはセルミナだ。もし、セルミナが何も言わなければ、電子レンジやオーブンで温めなおす予定だった。

 自分の我が儘でアリアに無理をさせたと気がついたセルミナは顔を蒼白とさせる。

「それは知らず失礼をかけましたわ。てっきり御影が作ったのを揚げるとばかりに思ってましたの」

「ううん。アリアも楽しそうだったからいいよ。セルミナさんに目にもの見せてやるって息巻いてたし」

「もし、美味しくない味やこれはヤバイと思っても、美味しいと言い切りますわ!」

「それは、止めて! 戦争が起こるから」

「というより、美味しくないと想像すること自体がアリアにとって物凄く失礼ですが。まぁ、いいですけど」

 無表情でツッコミを入れるアリア。

 どうやら話を聞いてたようだ。セルミナを見る目がいつもより少し冷たい。

「もうすぐで出来上がりますから、テーブルへお越しください」

 そう言って、アリアは調理場へと戻る。

 そして、テーブルに座ること1分。

 セルミナの目の前にはカレーパンの山が。パンを揚げた香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。

 自然とごくりと唾が鳴る。

「さぁ、セルミナ様どうぞ。ヤバイ味かもしれませんのでご注意を」

「千歳! アリアの物言いが怖いですわ!」

「うん。失礼なことを言ったのはセルミナさんだからね。仕方ないよ」

 少し、怯えながらセルミナはカレーパンを一つ手に取る。カレーパンには包み紙が巻かれており、そのままかぶりつくスタイルだ。

「んん!」

 セルミナは目を大きく開いた。まず感じるのはカリッと硬いパンの感触。硬いと思うが、それは最初だけ。内側はモチモチと柔らかい感触がする。相反する2つの食感が舌を楽しませる。そして、パンの内部のカレー。まず感じたのは甘み。様々な野菜を溶かすまでじっくり煮詰めることによってこの優しい甘みを出しているのだ。そして、カレーパン用に小さく角切りにされた牛肉は噛めばほぐれ、程よい脂と肉感を感じさせる。カレーを飲み込んで口内に最後に残る余韻は辛さ。最初の甘みは何だったのかと思わせるほど、体の芯から震わせる香辛料の辛味。

「美味しいですわぁ!!」

 この辛味にはパンがちょうど良い。だが、パンを口に含めばルーも一緒に食べることになり、セルミナの食指は止まらなくなっていく。

 一個食べきれば、もう一個。カレーパンの山がみるみる消費されていく。

「んんんっつううつつつう!」

 突然の叫び。カレーパンにかぶりついていたセルミナが出した声だ。顔は真っ赤だ。

 何だと驚く千歳を裏腹にアリアは無表情で言った。

「あ、一個だけですが激辛仕様にしています。ヤバイ物をご所望のようでしたので。元々は千歳様にと思ってましたが、セルミナ様に急遽食べさせることにしました!」

「僕に食べさせるつもりだったの!?」

 食べなくて良かったと思う反面、顔を真っ赤にさせて水を飲んでいるセルミナを見て思う。

 口は災いの元。

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