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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
62/129

62話 電子レンジが入荷された経緯

 今日も今日とて昼食の時間。

 場所は物理実験室。

 そこで皆で食べている時だった。

「ち、千歳。あ、貴方はな、何をやっていますの!?」

 ワナワナと震えながらセルミナは信じられないと千歳を見る。

「ふぇ?」

 言われる千歳は何が何だかわからない。

 千歳は自分を見直すが、特におかしい所はない。セルミナに理由を聞くために食べていたパンを飲み込んだ。

「ど、どうしたの、セルミナさん?」

「どうしたもこうしたもありませんわ!」

 語気を荒らげるセルミナ。どうやらご立腹のようだ。

 ええっ、と千歳は助けを求め御影を見る。

 だが、千歳を見つめる御影の表情も穏やかなものではなかった。

「私も疑問に思ってた所だ。千歳君の食べているものは何かな?」

「食べているもの? カレーパンですけど……まずかったですか? 臭い的に」

 お題箱のお題でカレーパンが出た。

 議論という内容ではなかったが、あれだけカレーパンが話題に出たのだ。

 食べたくなってくるのが人情という物だ。

 近所の美味しいパン屋に行きカレーパンを買ったのだ。確かに、カレーパンは強い臭いある。そこを女性陣が嫌ったのかと千歳は思った。

 だが、御影は机を叩き、否定した。

「違う。カレーパンはいい! カレーパンはいいんだ、千歳君。問題はなんでカレーパンをそのままで食べているのだということだ?」

「へ?」

 意味がわからない。

 パンなんだから、そのままで食べるのが普通ではないか。 

 だが、わかってないと御影は首を振る。

「温めずにカレーパンを食べるとは冒涜物だよ。ねぇ、皆」

 御影は緋毬、アリア、セルミナを見渡すと、

「だな。わたしもびっくりだ」

「アリアも指摘することが出来ませんでした。すいません」

「ですわ! まさか、温めずに食べる人がいるとは思いませんでしたわ!」

 口々に同意された。

「ええっ!?」

「料理の温度というのは味を構成する上で大切な要素ですわ。それをないがしろにするのはカレーパンに対する冒涜ですわ!」

「だな。カレー屋に行って、冷えたカレーが出てきたら『このカレーを作ったのは誰だぁっ!!』って厨房に突入するだろ。それと同じレベルだぞ、カレーパンを食べるのは」

「そこまでなの!? というか突入はしないよ、普通!?」

「そして、そのような行いに対して代金を払わず去って行くのですわね」

「食い逃げですよ、それ!?」

 混乱する千歳に御影は優しく肩を叩く。

「千歳君。昨日の議論を思い出してご覧。カレーパンはパンであってパンでないんだ」

「それ、僕は全然納得してないんですけど。というか、カレーパンはどうすればいいんです?」

「温めればいいんだ。初級者はそのまま電子レンジに。揚げパンだから、電子レンジで温めるとふにゃふにゃになるが、カレーは温まる」

「中級者は電子レンジで30秒ほど温めるた後、オーブントースターで温めると外はカリッと中は熱々で美味しくなりますわ!」

 御影の説明を引き継ぎ、セルミナが高らかに言う。

「……上級者は?」

 中級でも十分なような気がするが、これより上があるのか。

 千歳は思わず聞いてしまった。御影はうんと一度頷いて言った。

「電子レンジで熱々にして食べる」

「初級と同じじゃないですか!」

 思わず叫ぶ。だが、御影は心外なと眉根を寄せる。

「勘違いしては困るよ、千歳くん。初級は何も知らずにパンをふにゃふにゃにするんだ。上級はふにゃふにゃにしたパンをあれはあれで美味しいよなとわざとやるのだよ。匠の技というやつさ」

「千歳様。初級と違うのは極限まで熱々にすることです。温めればいいやと考える初級の発想とは違うのです」

「り、理解出来ない……」

「いずれ、千歳くんにもわかるさ。では、今日の所は……」

 と、周囲を見渡す御影。だが、

「電子レンジがないね、そういえば……」

 いたたまれない空気が場を襲った。後日、部室に電子レンジとオーブントースターが置かれることになったのは言うまでもない。

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