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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
61/129

61話 カレーパンのある生活 

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

 アリアが所要で研究所に行き、部室に居るのは4人。

「さて、今日はお題箱でもやるか?」

 そして、緋毬のこの一言が始まりだった。

「あ、やるんだ。2回だけで終わるのかなって思ってた」

 千歳の言葉に緋毬はうんと頷く。

「私としてはそれでも良かったんだがな、研究所の人に『お題箱やってます? 私頑張ってお題考えたんです!』って邪気の無い笑顔で言われてな。こう、すこし罪悪感が湧いたんだ」

「湧いちゃったんだ……」

「ああ。これが親父や変態共だったらどうでも良かったんだが、数少ない常識人に言われるとな心にくるものがあるんだ……」

 そこで緋毬は咳を一度して、御影、セルミナを見る。

「で、今日はお題箱だが、いいな?」

 各々が頷くのを確認して、緋毬はお題箱を取り出した。

「んじゃ、今回はみーが引け」

「私がかい?」

 唐突の指名に御影は戸惑う。

「ああ。今回はみーでいく。次回はアリア。その次は千歳って順繰りにすると公平だろ?」

「わたくしは?」

 自分の名がなかったセルミナが自分を指差しながら緋毬に問い詰める。

「セルミナは前回引いただろうが。千歳の次まで待て」

「そんなぁ……ですわ」

 そこまで引きたい物なのかなと千歳は思うが、黙っておいた。正解である。

「では、今回は私が引くとしよう……『カレーパン』って出たね」

「47都道府県以外の物が出たな」

 緋毬が言うと、千歳が頷く。

「研究所が絡んでたから、47都道府県以外の物が入ってないことも可能性としてはあったもんね、実際……」

「ああ。あり得ないとは思うが、奴らならって考えだすとなぁ……」

 二人の真面目な表情を見て。セルミナは二人が研究所の人をどういう風に思っているのか聞きたくなったが、黙っておいた。正解である。

「しかし、47都道府県じゃなくなったのはいいが、カレーパンかよ」

「これは………難題だね」

 御影は眉根を寄せながらカレーパンと書かれた紙を凝視する。

 千歳は確かにと思う。話す幅が狭いのだ。何を話せと言うのだと。

「ええ。カレーパンは話すことが多くて困りますわ」

「ええっ!?」

 と、思ってたのは千歳だけのようだ。セルミナの言葉に皆は確かにと言うのだ。

「まず、カレーパンはパンなのかという議論をすべきだと思うが、いかがだろうか?」

 御影は腕を組んだまま、右人差し指を立てて、皆に問いかける。

「え? 疑いようがなく、パンなんじゃ?」

 カレーパンはその名の通りパンがつく。コンビニに置かれる場所もパンのゾーンだ。

 だから考えるまでもなくパンだと千歳は思ったのだが、周囲を見渡すとどうやらそう思ってはないのだ。

「だな。あれをパンのカテゴリーに入れていいか常々思ってた」

「ええ。あれはパンであってパンでありませんわ!」

「ええっ!?」

 一人わからない千歳。

「あのなぁ、千歳」

 子どもに説明するように緋毬は言う。

「インドカレーのお店に行くときは、カレーを食べに行くって言うだろ。普通、インド料理屋のカレーはライスではなくて、ナンだ。でも私達はそれでもカレーを食べに行くという。それと同じだ。主役はカレーであって、ナンじゃないだよ。カレーパンもパンが主役ではなくてカレーが主役なんだよ」

「緋毬、いいことを言いましたわ!」

「うんうん。納得の説明だよ。私達はカレーを食べるためにカレーパンを食べるんだ。パンを食べるためにカレーパンを食べるのではないからね」

「わからない! 言ってることはわかるけど、わからない! じゃあ、おにぎりの具がカレーだったら、それもカレーになるの!?」

「それはおにぎりだろ。何言ってるんだ、千歳は」

 あたかも変人を見るように千歳を見る緋毬。

「違いがわからない! カレーパンの時だけカレーなの!?」

「千歳君。含有率の問題だよ。おにぎりの中にちょこんとあるようでは駄目なんだ」

「もし、おにぎりの中に沢山カレーが入ってたら?」

「それはカレーだ」

「やっぱり納得出来ないぃぃぃぃぃ!!」

 千歳の悲鳴が部室に響いた。そんなお題箱の日。

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