60話 帰るんだな。お前にも家族がいるだろう
今日も今日とて千歳様のご帰宅だ。
場所は千歳家、玄関。
「ただいまー」
「帰ったぞーー」
帰宅の声に反応して、家中からドタバタと足音が聞こえた。
「お帰りなさいませ、千歳様」
そして、無表情のアリアが千歳の帰宅を出迎える。
「うん、ただいま。遅くなってごめんね」
「いえ、遅くなると連絡がありましたので大丈夫です。アリアは悲しみの涙を流すだけですのでお気になさらず」
「ちょっと怒ってる!?」
アリアは千歳の鞄を奪い。室内に押し込もうとする。
そこで戸惑うのはもう一人の人物、竜崎碧人。
「あのーー、僕って言うお客様がいるんですけど。二人の世界を作ってないで出迎えてくれませんかね?」
アリアは初めて気がついたとばかりに、ゴミを見る目で碧人を見る。
「千歳様。あれほど、道に落ちてる中年を拾ったら駄目だと申したでしょう」
「酷い!?」
「ごめん、アリア。駄目だって言ってもついて来ちゃって……」
「千歳くんものらないで! 酷すぎるよ!」
「しかし、千歳様。この人誰なのですか?」
「製作者! アリアの製作者! そして、竜崎緋毬の父親!」
「はて、アリアは緋毬様から『わたしに父親は居ない。そう、居ないのだ……』と聞いております。あ、亡くなったんだヒャッホーとこれ幸いに製作者の情報を削除したんですが」
「どういうこと!? 流行ってるの、それ? というか、ツッコミどころ多くてツッコメないよ!」
そう言いながらも、碧人は靴を脱いでズカズカと家の中へ入っていく。
「ふぅ、ではアリア君。とりあえずビールで」
リビングに入り、テーブルに着いて、そんなことを言う碧人。
その言葉を聞いて、メイドロボであるアリアは客人である碧人に向けて親指を下にして言った。
「ゲットアウト」
「英語!? 出てけと!?」
「失礼。つい本音が」
「実は謝ってるようで謝ってないよね!? お客様だよ!」
「お客様、お帰りはあちらです」
「ああ、ありが……っておかしいよ!? さっきと変わってないよね!?」
「失礼しました。京都風にぶぶ漬けを頭からかけたらよろしいのですね?」
「よろしくないよ! 京都にそんな文化ないし! というか、千歳くんもなんとか言ってよね!」
それまで静観していた千歳に助けを求める。
「ええと、碧人さん何しに来たんです?」
「違う! アリアを止めてと言ったんだ。これだから、天然風味は」
「天然ってひどい……」
「ご自分では天然ではないと思ってらっしゃったんですか、千歳様は……」
それにびっくりだとアリアは言う。自分では普通と思っていただけに、千歳は首を傾げる。
「そんなことはいい! 僕は千歳くん達をからかいに来たんだ!」
このまま話をしていても拉致があかないと思ったのか、碧人は口調を強くしながらポケットから写真を出した。
「これは……」
取り出した写真は先程千歳に見せた画像の写真。データだけではなく印刷までしていたのだ。碧人はアリアが驚いてるのに気を良くする。
「ふふん、驚いてるね。さぁ、僕にからかわれるがいい!」
「盗撮にしては良く撮れてる方だと思いますが、これがどうしたのでしょうか?」
真顔で碧人に聞くアリア。純粋にからかうの意味がわからないという感じだ。
「…………え?」
「千歳様の顔が写ってないのは残念ですが、緋毬様とアリアと千歳様が仲良く相合傘してる写真だとわかります。それが何の問題になるでしょうか?」
「え、その………」
直球で聞かれ、碧人は言葉を探そうとするが出てこない。
「アリアとしては、娘を取られ盗撮写真を撮るしかない碧人様に同情を覚えます」
「言われてみればそうだ!? 客観的に見ると、娘とアリアを取られ、道端で盗撮してるだけなんだ!? なんか悲しくなってきた!」
「碧人さん……」
「慰めて、アリア、千歳くん!?」
涙目に訴える碧人。アリアは頷き、玄関の方に手を向ける。
「お帰りはあちらです」
「アリアぁぁぁ!?」




