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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
53/129

53話 お客様襲来

 今日も今日とて稽古の日。

 場所は千歳家所有の道場。

 そこにむさ苦しい男達が集まっていた。

 年の頃はバラつきがあり、下は10台、上は60台までと幅広い。しかし、最年少が千歳であって、次に若いのは30台なのだが。

「おーし、あれいくぞ!」

 道場のいる中でも一際巨漢な人物が皆に向けて声をあげた。藤堂という頬に傷があるこの男がこの場を仕切っているのだ。

「「うすっ」」

「「神代門下の誓い!」」

 道場で集まった男達全員で一斉に叫ぶ。

 ただ、千歳は例外で藤堂の後ろで何だかなぁといった表情で皆を見守っている。

「「神に逢うては神を倒し、鬼に逢うては鬼を倒す。

  祖師に逢うては祖師を倒し、魔に逢うては魔を倒す。

  後代に逢うては後代を倒し、三代目に逢うては諦める」」

 そこで一呼吸。

 そして、

「「それが神代門下の誓い!」」

 と最後に力強く言った。

「よし、各自訓練開始!」

 藤堂が言い。皆が思い思いの訓練を始める。

「藤堂さん、お疲れ様です。あれってやっぱり言わないといけないの?」

 あれとは先程の掛け声のことだ。

「やはり、あれを言うと言わないとでは違いますからね」

 藤堂はその顔には似合わず愛嬌のある笑顔で言った。

「でも、恥ずかしいというか何というか」

 三代目とは千歳のことだ。千歳の名前が入っているので気恥ずかしいのだ。

「そこは慣れてくださいと言うしかないですね。神代流の伝統ですし」

「うん。まぁ、そうだよね……」

 三代目の部分は後継者の名前を使う。今代は千歳が継承者なのだ。故に致し方なし。

「で、若は何をするんです? 暇だったら稽古をつけて欲しいですが」

 藤堂は期待に目を輝かせて千歳に聞いてくる。

 その子どものような純真な欲求に千歳はあははと笑う。

「つけてもいいけど、お客さんをお迎えするからその後かな」

「お客さん?」

 はて、誰だろうと藤堂が首を捻った時だった。

 道場の扉が開いたのは。

「うーす。邪魔するぞ」 

 そう言って入って来たのは千歳の幼なじみの少女、竜崎緋毬。

 道場で稽古をしていた門下生達は緋毬が入って来た瞬間に手を止めて、口々に挨拶しだす。

「姉御!」

「姉御だ! 姉御が来たぞぉ!」

「この男だらけのむさ苦しい場所に、天使が来た! 姉御万歳!」

 その歓迎ぶりはアイドルさながらである。

 歓迎される側である緋毬は門下生達に迷惑そう顔をしかめながらも、声をかけた門下生達に手を振って中に進む。そして、千歳の前へ着くと溜息をこぼした。

「どうしてこいつらは、娘と同じくらいかそれ以下の人を姉御、姉御と呼びたがるんだ……」

「さぁ、さぁ?」

「緋毬の姉御がここに来るのは珍しいですね?」

 藤堂は微笑みながら緋毬に問いかける。

「さっきの話を聞いてたか? 姉御って呼ぶなよ」

 藤堂は緋毬のジト目にあははと笑って受け取らない。

「いいじゃないですか。ここは本当にむさ苦しい場所ですからね。緋毬の姉御のような美少女の視線があると一層身が引き締まるんです」

「む、そう言われると悪い気はしないな」

「それに、緋毬の姉御が冷たい視線をくれると思うとゾクゾクと身体が興奮で震えますね」

「気持ち悪っ! 千歳の道場は変態ばかりだ!」

「ちょっと、藤堂さん嘘言わないでくださいよ!」

 千歳のツッコミに藤堂はあちゃーと自分の額を叩く。

「はっはっ、すいません。若はまだその域に達してませんでしたな」

「僕以外みんなそうなの!? そっちの方が嫌なんだけど!」

「ここの道場は変態を育成してんのか……」

 千歳と緋毬の態度に藤堂は何吹風、笑顔で話を変える。

「で、お客さんというのは緋毬の姉御のことで?」

「いや、緋毬じゃなくてね」

 千歳が口を開いた時、またも道場の扉が開いた。

 中に入ったのは千歳と年の変わらない女性。

 その女性は千歳達と同じ学校の制服を着ていた。

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