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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
52/129

52話 生徒会長が虐めるーー!

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。そこに緋毬と千歳がいた。

「千歳君!? 千歳君はいるかい!?」

 扉を乱雑に開け、御影が部室に入ってきた。

「ど、どうしたのですか御影さん?」

 いつもの態度とは違う御影に千歳は驚く。

 御影は千歳が居たことに安堵して口を開いた。

「千歳君に暗殺のお願いをしたいんだ。生徒会長を殺ってくれないか?」

「恐ろしいコト言い出したよ、コイツ」

 緋毬が半眼で御影を見る。開けられている瞳には呆れが多大に含まれていた。

「暗殺って……いきなりどうしたんですか?」

 絶句して、それから訳を聞く千歳。最近崩れてきているように思えてならないのだが、御影は大人っぽい雰囲気を持っている。その彼女がこうも自分を取り乱すのには訳があるのだろう。まずはそれを聞いてからだ。

「生徒会長が私を虐めるんだ!」

「凄くどうでもいい理由だった!」

 まさかの返答にがっくりくる千歳。

「どうでもいいとは酷いよ、千歳君! 虐めを苦にして自殺する人もいるんだよ!」

「ご、ごめんなさい」

 暗殺と言われたから千歳は気構えたのだ。確かに、虐めというのは深刻な問題だ。千歳にとっても御影が虐められていると言うのなら落ち着いてられない。

「で、どんな虐めなんです?」

 千歳は表情を引き締めて御影に問いかける。

 生徒会長が虐めをするのは信じられないが、御影が言うのなら本当だろう。

「あの生徒会長が人の揚げ足ばっか取るんだ! 人がせっかく知的イメージ確立のために啓蒙活動しているのに邪魔ばっかするんだ!」

「虐めじゃないですよ、それ!」

 思わず絶叫ツッコミする千歳。

「口喧嘩ですよね、それ!?」

「そんなことないよ、千歳君! 私が頑張っているのに、『役不足』の使い方が間違ってるとか『天地無用』は本当は逆の意味だとか言ってくるんだよ!?」

「むしろ、正しい意味教えてくれてますよね!?」

「正しいとか正しくないとか関係ないよ! 私の知的イメージさえ確立出来ればいいんだから!」

「凄いこと言っちゃってるよ、この人!」

「つーか、どんな会話をすれば役不足とか天地無用って言葉を日常で使うんだよ」

 緋毬が呆れながら尋ねるが御影は答えない。

 むしろ、生徒会長への思いを増々募らせる。

「で、私は生徒会長に反論しようとしても、出来なくて口惜しい思いをしたんだ。この恨み、晴らさでおくべきか!」

「逆恨み!?」 

「私に恥をかかした罰に正義の鉄槌を!」

「どこにも正義の要素入ってねーな。逆恨みだし」

「ひーちゃん、覚えておいた方がいい。勝った方が正義になるのだよ。歴史がそれを証明している!」

「もう、めちゃくちゃだな。というか、千歳に頼るのも間違ってる気がするし」

 緋毬の言葉に御影は涙目になりながらも反論する。

「だって、あの生徒会長は武術を習ってるせいで、そこらの男子より強いんだよ! 文化系クラブの知的キャラの私じゃ太刀打ち出来ないんだ!」

「いや、そういう意味では……まぁ。いいか」

「だから、武術を習っている千歳君に奴を成敗して欲しいんだ!」

「い、いえ、その……」

「別に殺さなくていい。ちょっと心に傷をつけて立ち直れない感じにするだけでいいから!」

 千歳が断ろうとしてることを察知した御影は要求のレベルを引き下げる。

「エグすぎですよ、それ!?」

「駄目なの!?」

「逆に、駄目じゃないと思ってたの!?」

 立ち直れないほどの傷をつけることを二つ返事で引き受けることの方がびっくりだ。

「くそぅ。ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックを使っても千歳君の了解を得られないとは……」

 ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックは要求水準の落差を利用した交渉術で。まず高い要求を出して相手に拒否させておき、次に要求水準を下げて相手に承諾させる話術のことだ。相手が断ることで発生する後ろめたさを利用した心理トリックとも言われる。

「じゃ、じゃあ。生徒会長が挨拶してきたら無視するだけでいいから!」

「それ、軽い虐めになってますよね!?」

 いつの間にか最初の話とあべこべになっている。

「けど、傍から見たら仲良さそうなんだがなぁ……」

 御影に聞こえないように緋毬は小さく呟いた。

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