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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
51/129

51話 まず基礎トレに反復横跳びですわ!

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

「あのさぁ、千歳」

 緋毬は気だるそうに千歳に話しかけた。

「ん、なに?」

 宿題をしていた千歳は緋毬の声に反応して手を止める。

「この前、体育の授業で男子は卓球してるって言ってたよな?」

「うん」

 この前のマラソン騒動を思い出しながら千歳は頷く。

「千歳って卓球出来るの?」

「ど、どういう意味!?」

 緋毬は言いづらそうに眉間に皺を寄せて下唇を噛む。

 そして、意を決して口を開く。

「わたしはあれから千歳の卓球している姿をイメージしたんだが、どうしても反復横跳びする姿しか想像出来ないんだ……」

「何、それ!?」

「ラケットを空振りしながら、反復横跳びし続けるんだ」

「変人すぎるよね、それ!」

「で、そんなことやってたら虐められないか少し心配なんだ」

「やってるって前提で話を進めないで! ちゃんと普通に卓球してるから!」

「マジか!?」

「何でそんなに驚くの!?」

「だってなぁ……なんか千歳が卓球上手ってイメージ出てこないんだ。ラケットを空振りする姿とか反復横跳びしてる姿ばっかり想像しちゃんだよ」

「卓球部の人達みたいに上手くはないけど、決して下手ではないからね……」

「つまり、わたくしの出番ですわね!」

 それまで千歳と緋毬の会話を聞いていて、話に参加するタイミングを伺っていたセルミナが立ち上がった。

「うわ、何だいきなり!」

 突然の登場に驚く緋毬。

 絶好の登場と思っていたのはセルミナだけで、不自然な登場の仕方だったのだ。

「で、出番って何、セルミナさん?」

 登場の仕方間違えたのかしらと首を捻るセルミナに千歳は聞いた。その言葉に本題を思い出しポンと手をうった。

「千歳。貴方の思いが伝わりましたわ。卓球が強くなりたいのですわね?」

「ええぇ……」

 卓球が出来ないとは思われたくないが、上手くなりたいとは一切思ってない千歳。セルミナの言葉に戸惑うばかりだ。その戸惑いを胸の内を当てられたからだと思ったセルミナ。

「わたくしにはお見通しですわ。緋毬に馬鹿にされ、級友になじられ、絶望する日々。嗚呼、卓球が強ければという思いが!」

「ツッコミ所が多くてツッコメない!」

「千歳、大丈夫ですわ! 卓球が強くなれば虐められなくなりますわ」

「全然、話聞いてないな、コイツ……」

 緋毬は一度はぁと溜息をつき、気を取り直してセルミナに聞く。

「で、どうやったら卓球が上手くなるんだ?」

「緋毬!?」

「誤解を解くより、このまま突き進んだ方が面倒が少なそうだ。耐えろ、千歳」

「うぅ………わかったよ」

 緋毬の言い分に、不精不精頷く千歳。

「覚悟は決まったようですわね。では、始めますわよ」

 ニヤリと笑うセルミナ。

「まず、千歳の戦法はなんですの? ドライブ主戦型? 前陣速攻主戦型? それとも、カット主戦型?」

「何、それ……」

 いきなり専門的な会話が始まり置いてけぼりになる千歳。

「千歳! まさか戦法も知らずに卓球をしてますの?」

 信じられないと口を開けるセルミナ。

「いや、普通学校の授業では戦法とか習わないし、しないだろ」

「ですわ?」

 セルミナは本当にと千歳を見ると、千歳は頷く。

「普段卓球やらねーからな。ラリーが数回続けばいいレベルだぞ」

「そんな!?」

 学生の卓球事情を知り、絶望するセルミナ。

「せっかく漫画の知識を活かせると思いましたのに。このままでは千歳は反復横跳びしながら空振りする毎日ですの」

「それ誤解だからね!」

「というか、漫画の知識かよ!」

 まさかの漫画の受け売り講座だった。今日もセルミナは絶好調なのである。

次回

『52話 生徒会長が虐めるーー!』

『53話 お客様襲来』

『54話 緋毬の霊圧が消えた……?』

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