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けんぽう部  作者: 九重 遥
春から夏へ
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5話 けんぽう部

「そういえば何部なの?」

 千歳は今更ながらの質問を緋鞠に問いかけた。

「言ってなかったか?」

「うん。人数集めようとしても、何の部活かわからないから誘いづらいんだ」

「そか、それは悪かったな。もう言ってあるかと思ったぜ」

「ふふっ、なら、僭越ながら私が発表させてもらうよ」

 御影が機嫌良さそうに千歳の前に出た。

「私たちの部活は」

 そこで一瞬ためて、

「けんぽう部だ!」

 晴れやかに言った。

 それを聞いて千歳は言った。

「理解できないんだけど。つまり、どういうこと?」

「千歳は拳法か何かやってたって言ってただろう。だからそれにしたんだ」

「いやいやいや、わからないよ。なんでそうなるの? 僕、全然関係ないよね」

「うっせぇ。他に思いつかなかったから仕方ないだろ!」

「ぶっちゃけた!」

「なに、千歳君。大事なのは名称ではなく中身さ」

「中身って?」

「この部屋に来て、だらだら過ごすことさ!」

「中身ないじゃん、この部活!」

「そんなことないさ。ほら見てご覧」

 そう言って御影は視線を壁際へと移す。そこには、冷蔵庫や畳があった。

「中身ってそっちのことなの!」

「どこの部活がここまで設備を充実してるんだ! いや、ないだろう!」

 誇らしげに御影は胸を張ったが、千歳には称賛する気にはなれなかった。

「でもよくこの場所とれたね。拳法部っていうからには体育会系の部活でしょ」

 体育会系の部活は専用の部活棟があり、そこに割り振られる。文系クラブは校舎内の教室を借りるのが一般的だ。

「いや、文化部だぞ。けんぽう部は」

「え?」

「字が違うのだよ、千歳君。拳法ではなく憲法だよ」

「ええぇ!!」

 高校生の部活動で憲法部というのは聞いたことがない。千歳は耳を疑ったが、どうやら聞き間違えではないらしい。

「拳法云々って何なの?」

「建前だ!」

「本当になんでもよかったんだね……」

 御影は腰を手に当てて千歳に説明し始めた。

「生徒会に提出した資料ではこうなってるね。『現在の日本の憲法では様々な問題を抱えている。現在の私達は憲法改正の国民投票に参加できる年齢ではないのだが、来るべき将来に備え活発な議論をするのは有用と言えよう。また憲法から波及する様々な事柄にも議論や推論や何かをしたい』ってね」

「生徒会に通ったんですか、それ?」

 どこか疑わしげに千歳は御影に問いかけた。だらだらすると言ったのとかけ離れている気がするのだ。

「ああ。生徒会長は気難しげな顔をしていたがね」

 ふふんと御影は得意げに笑った。どこか勝ち誇っている感じがする。

「御影さんって生徒会長と知り合いなんですか?」

「ああ。みーと生徒会長は知り合いで仲が悪いんだよ」

「ちょっと意外ですね、それ」

 御影は如才なく世間を渡るイメージがするだけに、千歳にとって違和感を感じるものだった。

「生徒会長は清廉潔白と言われてるからな。みーとは仲が悪いんだ」

「ああ。生徒会長はどれだけ叩こうがホコリがでない人なんだ」

「善良ですよね、それ! いいじゃないですか別に」

「水清ければ魚棲まずって言うではないか。多少後ろ暗い部分があるほうが人として好感が持てるのさ」

「もし、やましいところがあったらどうするのですか?」

「勿論、脅すのさ!」

「うわぁ……」

「待て、千歳君。ドン引きするな。ちょっと言い間違えただけだ。円滑な交渉のための潤滑剤として使用するだけだ」

「みー、それ言い方変えただけで何も変わってないぞ」

「と、とにかく許可はとれたんだ。これから頑張っていこうじゃないか」

「ごまかしたな」

「ごまかしたね」

「う、うるさいよ、君達」

 こうしてけんぽう部は活動を開始した。

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