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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
49/129

49話 世の中にはランニンマシーンというものがあってな

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

 そこで緋毬と御影はダレきっていた。

「あ"づーーー。づかれたぁーー」

 緋毬は机に体を投げ出し、顔はピッタリと机にくっつけていた。

「日本の夏は地獄だね。クーラーの存在がなかったら国外逃亡していたよ」

 御影も緋毬と同じ格好で呟く。

「みーの言う通りだ」

「そこまでのことなんだかなぁ……」

 扇子で緋毬を扇いでいた千歳がぼやく。

 その言葉に、緋毬はキッと千歳を睨む。

「千歳! 炎天下の中走らされてみろ! ぜってぇ、同じ気持になるはずだ」

「そうだ、そうだ! 千歳君は何もわかってない!」 

 御影の合いの手の元、千歳の批難が始まる。

「ええっ!?」

 何で批難されているのかわからず、千歳は戸惑いの声をあげる

「千歳様。体育の時間、女子はマラソンだったのです」

 助けたのはアリア。千歳と同じように扇子で御影を扇いでる。

「なるほど」

 午後のラストの授業は体育。部活前のその時間、緋毬と御影は授業中走っていたのだ。

 本日は梅雨の時期には珍しく、太陽がさんさんと照りつけていた。その炎天下の中、走らされていたのでは愚痴の一つも出るのだろう。

「何で夏にマラソンやるんだよ、普通、冬だろ、冬」

「そもそも、長距離を走る事自体ナンセンスだよ。長距離移動をするなら自転車、車、電車等の交通手段を使うべきだよ」

 口々にマラソンへの愚痴が続く。

 緋毬と御影はクラスは違うが、体育の時は他クラスの合同で行われるのだ。

「御影さん、マラソン全否定ですよね。体力向上や根気を鍛える意味合いとかもありますよ」

「千歳君が正論で私をいじめる!?」

「ええっ!」

「千歳ひでー。というか、男子はグラウンド出てなかったよな? 何してたんだよ?」

「卓球だったよ!」

「ずりぃ!」

「ずるいよ、千歳君」

「ずるいって」

 ずるいと言われても、体育の内容を決めるのは体育の先生の仕事だ。学生の身では何ともしようがない。

「でも、体育館も暑いよ。風通し悪いから」

「それでも、直射日光ないからマシだろ! 肌が焼けるは暑いわでいいことなしだぞ!」

「日焼け止めしてても汗が出てくるからねぇ……」

「あーーー」

 男子と違い、女性は肌が焼けるのを好まない。

「なんでマラソンなんだよ。夏の時期に好き好んで走る奴なんていねーよ」

「運動部全否定!? 夏でも体力強化のために走ってるよ!」

「うわぁ……言われてみたらそうだ。信じられねぇ」

「ひーちゃん。貴重な人種だよ、それは。無形文化遺産に申請するべきだ」

「すごい言い様!? 絶対申請却下されますよ!?」

「文化系クラブには信じられない所業だよ」

「所業って……僕もたまに走ってますし」

「うわ、ここにもいた! 信じられねぇ!」

「千歳君、文化系クラブの風上にも置けないよ!」

「ええ!?」

「千歳様は武術をなさっておりますから」

 アリアがフォローの言葉を入れる。

「ちっ、これだから脳筋は困る」

「凄い言われよう!? 走ると気持ちよくない!? 走り終わった後の達成感とかさ!」

「千歳君。君は病院で見てもらった方がいいよ」

 千歳の肩をポンと叩き、御影は言う。

 その顔は優しさに満ちていた。

「どこもおかしくないですからね! 一般的な意見ですよ!」

「これが神代流なのか!?」

「一般的な意見って言ってるでしょう!」

 そうなのかと御影は緋毬を見ると。

 緋毬は沈痛な表情で首を横に振った。

「やっぱり、千歳君。病院に行こう」

「緋毬ぃぃぃ!」

 この日、千歳はやっぱりおかしいと結論が出された。

 この日、漫画に没頭して話を聞いてなかったセルミナが実は千歳派だったのはまた別のお話。

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