48話 ハンカチを噛みしめていたのです!
今日も今日とて部活の日。
場所は物理実験室。
セルミナと御影はきりがいいところで自分の作業を終え、早々と帰った。
そして、残った3人も帰る準備をしていた時だった。
「しかし、アリアは何でそんなに相合傘をしたかったんだ?」
帰り支度の途中、緋毬は少し呆れを滲ませながらアリアに聞いた。
その言葉にアリアは過去を思い出すかのように目を閉じる。
そして、目を開けたその姿には決意の炎が灯っていた。
「はい、前回の緋毬様と千歳様の相合傘が羨ましかったのです」
「ええっ!?」
「ぶっ」
緋毬と千歳は驚くが、アリアは平然としている。
「お、おま……羨ましかったって」
「そうです、緋毬様。前回の相合傘騒動。アリアは二人の後ろで忸怩たる思いをしました」
「忸怩たる思いって……」
二人は何もわかっていないとアリアはかぶりをふる。
「千歳様の横には立てず、後ろについて歩くも緋毬様と千歳様は二人の世界を構築する始末」
「し、してねーよっ!!」
「そ、そうだよアリア」
「では、思い出してください。あの帰り道。アリアは会話に参加していましたか?」
「あ…………」
思い出せば、千歳はほとんど緋毬と喋っていた記憶がある。それは主人のために一線を引いて会話に参加をしなかったのか、それとも会話に入れなかったのかはわからないが。
「確かに……参加してないね……」
「そうでしょう、千歳様。千歳様が緋毬様の体温や感触にドギマギしていた時もアリアは後ろでハンカチを噛みしめていたのです」
「いや、アリア。そんな面白キャラじゃないだろう」
「緋毬様がもっと傘に入るようにと千歳様に肩に手をまわされてドギマギしていた時も、アリアは後ろでハンカチを噛みしめていたです」
「ばっ、ドギマギなんかしてねーよ!」
「緋毬様と千歳様が肩を寄せ合い、
『緋毬、腕に胸、胸が当たってるよ!?』
『し、仕方ねーだろ! これ以上離れると濡れるんだろ! か、肩寄せたの千歳だし! 傘そのままで1メートルくらい離れろ! 』
『それだと、僕が濡れるからね!?』
『なら、仕方ないだろ……』
『うん……』
と顔を赤らめながら相合傘をしていた時もアリアは後ろでハンカチを噛みしめていたのです!」
「わかったから! わかったから羞恥攻撃やめろ!」
緋毬は顔を赤くながらアリアの肩を揺すぶる。
「アリアはハンカチをかみしめていたのです! そう、あの時も……」
アリアは揺すぶられながらも無表情で更なる激白を続けようとする。
「やめろーーーー! 千歳も何か言えぇ! アリアを止めろ!」
堪らず、緋毬は千歳に助けを求める。
「ええと、後ろから見てたら顔が赤いかどうかわからないよね!」
「では、千歳様。平然としていたとでも?」
肩を揺すぶられながら、アリアは冷たい目で千歳を見る。
「ごめん。僕も降参……」
「千歳ぇぇ!」
場が落ち着くまで5分を要した。
「ぜぇぜぇ……帰るぞ」
息を切らしながら、緋毬は言った。その顔には疲労が色濃く出ていた。
「しかし、緋毬様。問題が一つございます」
「…………なんだ?」
嫌な予感を感じながらも、緋毬は聞く。
「用意してた傘なのですが、実は壊れていることが先程判明しまして」
言葉とは裏腹に、アリアは平然な調子で呟く。
「絶対わざとだろ、それ!」
傘を開けてみようとするが、本当に壊れているのかどれも開かない。
「でも、傘がなかったら帰れないよね?」
「なんと、先程傘を渡した生徒会長からお礼にと傘を貰いました」
「色々おかしいだろ、それ! いつ貰ったんだよ!?」
緋毬がツッコムが何吹風。アリアは新たな傘を取り出し話を続ける。
「なんとその傘、驚きの1mのビッグサイズ。3人で入れます」
「でけぇ! しかし、3人で入ると絶対、窮屈だろ!」
「緋毬様にもアリアと同じくハンカチを噛ませたくないのです」
「いいよ、その気遣い! めっちゃ恥ずかしいよりマシだよ!」
その帰り道。見目麗しい女性に挟まれ相合傘をした男は噂になったとかならないとか。
次回
『49話 世の中にはランニンマシーンというものがあってな』
『50話 モミ消す!ゴマカす!!』
『51話 まず基礎トレに反復横跳びですわ!』




