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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
43/129

43話 上か下かは選ばせてやる!

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

「で、これはなんだ?」

 緋毬は白い箱を指差しながらアリアに問いかける。

 机の上には見慣れぬ物体が置いてあった。

 白い直方体であるそれは、正面に手が入りそうな穴が空いている。

「中に何か入っていますわね」

 セルミナは白い箱を振ってみるとカサカサと中から音がした。

「それはお題箱です。中には四つ折りにされた紙が大量に入っております」

「お題箱?」

「はい。この箱の中にはお題が書かれた紙が入っておりまして、その紙に書かれた内容について皆で話しあおうという企画でございます」

「お題箱というのはわかったよ。しかし、何故これをアリア君が用意したのかな?」

 皆を代表して御影が尋ねた。

 御影の質問にアリアは頷いて。

「皆様が暇だと嘆いていましたので、アリアは考えました。何か出来ることはないかと」

「でも、各自暇潰しの道具があるんじゃないかな?」

 千歳が反論するが、アリアは首を振った。

「ええ、しかし、それは一人用の遊び。せっかく集まっているのです。集団で出来ることはないかと思いまして」

「それは……そうだね」

 確かにそうだ。5人も集まっているのに読書や勉強、ゲームをしていたら勿体無いのかもしれない。

「で、研究所の人達に考えさせました」

「投げっぱなしだ!?」

「で、出来ましたのはこちらなのです」

 アリアは白い箱を指差した。

「なるほどな。でも、変なお題とか無いだろうな? 研究所が噛んでると怪しさ満点だぞ」

 緋毬は納得しつつも、げんなりとした表情をする。

「一体、アリアの研究所ってどんな認識をされてますの?」

 セルミナが戸惑いの声をあげる。対外的には自我を持つアンドロイドを作り上げた立派な研究所なのだが、緋毬達の会話を聞いていると変態の巣窟にしか聞こえないのだ。

「ええと。その何だろう。ひーちゃんの父親がトップとして活躍してる所と言おうか?」

「ええ、そうですね? 碧人さん生き生きとしてますからねぇ……」

「何で二人ともわたくしと目を合わさないのですの?」

 懸命にセルミナの目線から逃れようとする御影と千歳。

「一応検閲しましたので大丈夫ではないかと。試しに引いてみましょうか」

 アリアはそう言って、白い箱に手を入れる。

 そして、中から四つ折りにされた紙を取り出した。

「ええと……『千歳様が脱ぐ』って……書かれております」

「「……………」」

「…………何、それ」

 千歳は沈黙から回復し、戸惑いの声をあげる。

 紙を覗きこむが、書かれているのはアリアの言った通りの内容だ。

「さぁ、千歳様。どうぞ」

 アリアは無表情で促す。

「続けるの!? お題を話し合うじゃないの!?」

「お題はお題ですから、任務を遂行しましょう」

「おかしいよね!? 罰ゲームになってるよ!? 皆も嫌だよね?」

 そう言って千歳は周りに助けを求める。

「まぁ…………」

 理不尽かなという空気が流れ、千歳を援護しようと声が出かかった時、

「実は千歳様、脱いだら凄いんですよ。細マッチョって言うのでしょうね。一見の価値があると思われます」

 アリアはボソリと呟いた。

 その場が止まる。そして、少し時が経ち。

「うん……まぁ、仕方がないか。脱げ、千歳」

「……千歳君が脱ぎたいというのなら、私も止めやしないよ」

「ハレンチですわ!」

 緋毬、御影、セルミナ、各々顔を少し赤らめながらそう言った。セルミナは両手を顔に当てて顔を逸らしてはいるが、目線はチラチラと千歳を見ている。

「さぁ、千歳様。民意はこうなっています」

「民主主義の暴力!?」

 民主主義は絶対的正義ではないことを千歳は学んだ。

 また一歩、大人になったのだ。

「って何で脱がそうとするの!?」

 千歳の悲鳴が物理実験室に木霊する。

 彼はまた一歩、大人になったのだ(繰り返し)。

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