41話 自分格闘技やってますから
今日も今日とて部活の日。
場所は物理実験室。
千歳が扇子で扇いでいる時だった。
「そう言えば、扇子で遊べる遊びがありましたわよね?」
セルミナが千歳を見ながらそう声をあげた。
「投扇興だね」
その疑問に答えたのは御影。
知的キャラを狙い、回答したのだ。
「投扇興?」
緋毬は聞き覚えのない名前に聞き返す。
「それはね、と……」
一房の髪をかきあげ、御影は自慢気に口を開くが、
「投扇興とは日本の伝統的対戦型ゲームの一種である。桐箱の台に立てられた「蝶」と呼ばれる的に向かって扇を投げ、その扇・蝶・枕によって作られる形を、源氏物語や百人一首になぞられた点式にそって採点し、その得点を競う。以上Wikipediaからでした」
と、の文字を喋った時点で先にアリアに口を出され止まった。
「そうそう、そうですの! そんな名前の遊戯でしたの!?」
「ああ、テレビで見たことあるな、あれが投扇興ってやつか!」
御影をよそに、各自投扇興の話で盛り上がる。御影は依然との口で止まっている。心なしか泣いている様に見えるのは気のせいだろうか。
「そ、それで投扇興がどうかしたの?」
御影の姿を見なかったことにしつつ、千歳は少し話を掘り下げる。
「わたくし、投扇興をやってみたいのですわ!」
「でも、道具がないぞ?」
「扇子がありますわ!」
「だから、扇子だけじゃ駄目なんだろ」
「ですわ!?」
それは知らなかったとばかりに驚きの声を出すセルミナ。
アリアの説明を聞いてなかったのかと溜息をつきながら緋毬は説明する。
「さっきアリアが言ってただろ投扇興つーやつは、扇・蝶・枕の3つの道具がいるんだ。扇だけではどうにもならんのだ」
「補足しますと、蝶は的のことでイチョウの葉の形をした物。枕は的を載せる台で、大きさは流派によっても異なりますが17.5×9×9cm程度が一般的なものでしょう。扇はその名の通り扇子のことです。これにも規格がありますが省略します」
「そんなぁ」
出来ないと知って悲鳴をあげるセルミナ。
それを一瞥しながら、緋毬は言う。
「それにもしやったとしても、千歳の優勝だぞ、これ」
「千歳が?」
今も扇子で扇いでいる平和そうな千歳に皆の視線が集まる。
「一斉に見られて恥ずかしいのですけど」
「やっぱり女子力が強ければ投扇興も強いのか。投扇興って雅っぽいからね。くっ……」
停滞から復帰して、御影も会話に参加する。
「流石です、千歳様」
御影はわけがわからない納得をしているが、セルミナは納得出来ない。
「やってみないとわかりませんわ! 今日の占いで一位でしたのよ、わたくしは!」
「根拠の理由がわからねぇよ。千歳、扇子沢山持ってたよな。見せてやれ」
「う、うん」
緋毬に言われ、千歳は鞄から扇子を取り出す。
「まずあの机に載せてみろ」
一つ前にある机を指さし、緋毬は言う。千歳は、ほっと扇子を開いた状態で投げると、それは指示通りの場所へ着く。
「次もう一個向こうの机。次は更にもう一個……最後は扉。けど扉には当てんなよ」
矢次早に緋毬は指示を出す。千歳はその指示にリズムよく扇子を投げる。投げ入れられた扇子は指示通りの場所へ寸分違わず届けられる。
「凄いな」
「流石です、千歳様」
最後に指定された扉付近に投げ入れられた扇子は、扉には当たらず、しかし扉から1cmも離れていないほど近くにあった。
「わたくしもやってみますわ、ほっ!」
千歳の真似をしようと、セルミナが挑戦するも扇は上手く飛ばない。
「難しいですわ!?」
「というより、まっすぐに飛ばないね」
御影もやってみるが、失敗する。
「しかし、凄いな千歳君は」
一切ミス無く成功させた千歳に賞賛の声が。
「これでも神代流の正統後継者ですから」
胸を張る千歳だが、周囲は扇子と神代流の関係がわからず首を捻るのは当然の話だった。