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けんぽう部  作者: 九重 遥
春から夏へ
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4話 九条院御影

「なんか凄いことになっている」

 自己紹介をした翌日の放課後。場所は第二物理実験室。

 物理実験室の扉を開けて、千歳はその光景に呆然とした。

 昨日までは壁際には何もなかったが、今はあるものが存在した。左側の壁際には小型の冷蔵庫と電子レンジが、右側の壁際には畳が四畳ひかれていた。

「間違ってないよね」

 一度外に出て、自分が入った教室が第二物理実験室かどうか確かめる。間違ってないことを確認するとこれが現実なのがわかった。

「何してんだ、千歳。さっさと入って来い」

「え、あ、うん。ちょっと現実が受け入れられなくてね」

「ふふっ凄いだろう」

 緋鞠は畳に寝そべってくつろいでいた。御影はそんな緋鞠を見ながら物理実験室に備えられていた椅子に座って微笑んでいた。

「どうしたんですか、この備品。まさか……」

 この部室を獲得した経緯を思い出して、千歳は御影を恐る恐る見た。

「ははっ、安心しなよ。私のポケットマネーから出したのだから」

「全部ですか?」

「ええ」

 千歳は冷蔵庫や畳を見回して聞いた。これら全て集めるには諭吉さんが何人もいるのではなかろうかと考えたのだ。一介の女子高生がポンと出せるものなのかと疑問に思った。

「みーはなお金持ちなんだよ。実家が金持ちでもあるし、個人資産でもかなり持ってる」

「そうなんだ。初めてお金持ちを見た気がするよ」

「おい。わたしも一応お金持ちの分類に入るんだが」

 緋鞠の父親の会社は竜崎エレクトロニクスだ。日本有数の企業であり、その影響力は世界規模に及ぶ。その役員の娘なのだ。一般人と自称する自称する中流家庭の千歳とは雲の上の存在である。

「や、ほら緋鞠の家ってお金持ちな感じがしないんだよね」

「む。それは否定できないな」

 緋鞠の家は豪邸ではなく、ちょっと広い程度の一戸建てだ。そして、緋鞠の家族には千歳は良くしてもらっている。その家族の性格も含めてお偉いさんとは思えないのだ。

「でも、ひーちゃんはパーティに出たりしてるじゃないか。ドレス姿を見たことはないのかい、千歳君」

「パーティー?」

 千歳の頭の中に疑問が浮かぶ。誕生日パーティーを除けば、パーティーと言われて思いつくのは大草原でアメリカ人がコーラを飲んで肉を切ってバーベキューをする姿だ。千歳が何を想像しているのかわかったのか御影は笑いながら千歳の妄想を否定する。

「ふふっ、そのパーティーではないさ。企業の有力者や政治家の顔合わせのイベント。私とひーちゃんはそこで初めて出会ったのさ」

「まぁ、出来れば出たくないイベントだがな。みーがいたから助かったよ。何が嬉しくてオヤジ共と話さなきゃいけないんだ」

「セレブなんですね、九条院さん」

 千歳の脳内でパーティーに参加=セレブという方程式が成立した。合ってるかどうかは別だが。

「おい、わたしもパーティ出てるって言ってんだろ。何サクッと無視してやがる」

「や、緋鞠をセレブに分類するには抵抗があって……」

「なにおぅ」

 パンパンと緋鞠は千歳の肩を叩く。そんな二人を見て御影は笑った。

「別にセレブと言うわけではないよ。九条院家は歴史が古くてね、それだけで呼ばれるだけさ」

「九条院さんは緋鞠とはいつ頃からの知り合いなんですか?」

「ん、中学校入ってぐらいかな。知らなかったのかい?」

「幼なじみっても幼稚園からずっと一緒の学校ってだけだからな。クラスが違ったりして交流がない時期も多少あったし。わたしも千歳もお互いのことで知らないことがあるだろう」

 緋鞠はそう言って千歳の方を見る。だが、千歳は目を泳がせ横を向いた。

「おい、その反応はなんだ!」

「……ごめん。千歳のおじさんが色々教えてくれてるから……」

「あの親父はいっぺん〆なければいけないな」

 緋鞠が不穏な発言をして、腕を鳴らす。

「ねぇ、千歳君。私のことは九条院ではなく御影と呼んでくれないか」

「えぇ! 下の名前ですか!」

「ああ。九条院では堅苦しくてね。御影と呼んでくれた方が嬉しいのさ」

「えぇぇと……みかげさん」

「なんだい? もうちょっと大きな声で言ってくれないとわからない」

「うぅ……御影さん」

「もっと大きな声で」

「御影さん!」

「うん。ありがとう、千歳君」

 そう言って御影は微笑んだ。

土御門御影→九条院御影に変更。

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