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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
38/129

38話 御影と千歳と髪型と

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

 そこに御影と千歳が居た。

「暑いね。夏はこの暑さが嫌だね」

 御影は首元の汗をハンカチで拭いながら言った。

「御影さん、髪型をかえたんですね」

 御影は長い髪を一纏めにし、後ろに垂らしていた。

 俗に言うポニーテールというやつだ。

 千歳の問いに御影はニヤリと笑う。

「ああ。イメチェンというやつだね。季節が変わったから髪型も変えてみたんだ」

「へぇ、雅ですね」

 千歳はよくわからない感銘を受けた。

「はは、そんなものではないよ」

 千歳の眼差しに照れながら、御影は首を振る。

「私が女性だと自信を持って言えるのはこの長い髪だからね。それをアピールしていこうと思ったんだ」

「いや、御影さんはどっからどう見ても女性じゃないですか……」

 少し呆れを含みながら千歳は言う。

「いや、このけんぽう部での私という女性的地位は低い」

 だが、御影は真面目な声音で千歳の言葉を切って捨てた。

「ええぇぇ!?」

 御影はどっからどう見ても女性だ。美人だ。体型はスラっとしていて、顔は小顔でシャープな線を描き、可愛いというより綺麗という印象を与える。麗人とはこの人のためにあると言っても過言ではない。その御影を誰が女性では無いと言えるのか。

「けんぽう部は……巨乳しかいない……私を除いて」

「……………」

 部室に沈黙が舞い降りる。

 重苦しい空気の中、御影は続ける。

「このけんぽう部に女性は4人。ひーちゃん、私、アリア君、セルミア君。私を除いて全員でっかいんだ!」

 何がとは言わなかった。言わなくてもわかる。

「ひーちゃんはあの身長なのに胸がでっかいし、セルミア君なんて洋モノと思わせる迫力がある。アリア君なんて着痩せするから脱いだらもっと凄いんだぞ」

「洋モノって……」

 さらりと問題発言だよなと千歳は思う。

「あ、あのアリアはアンドロイドですから……」

 内心帰りたいなぁと思いながら、千歳はフォローの言葉を御影に投げる。

 だが、御影はキッと千歳を睨む。

「だからなんだ! アンドロイドだから胸がでかいのか! Dカップもあるんだぞ! 聞いたら、千歳君が望むならEカップに成ると言ってたんだぞ! 大きくなるのも自由自在とは羨ましすぎる! 私も豊胸手術するべきなのかな!?」

 一人エキサイトする御影。

「帰りたい……」

 ついに言葉に出す千歳。

「将来はひーちゃんクラスに成るにしても、今の私では戦力差がありすぎる! だから、だから私は髪型を変えてアピールすることを決心したんだ!」

「はぁ……」

 暑いなぁと思いながら、千歳は扇子を取り出して扇ぐ。

 千歳は現実逃避を始めたのだ。

 本日は雨。この時期は暑い上に湿度がある。

 扇子を扇ぐと、生温い空気が千歳の肌を撫でる。

「あれ? 人のことを雅という割に千歳君も雅だね?」

 一人エキサイトしていた筈の御影だが、千歳を見て我を取り戻した。

「雅?」

 何のことと千歳は首を傾げる。

 御影は扇子を指さして、それだよと答える。

「あぁ」

「クラスの皆は扇ぐとしても下敷きぐらいだ。扇子で扇ぐとは風流だね」

「扇子は便利ですからね」

 パチリと音を立てて、千歳は扇子を閉じる。

 その堂の入った動作に御影は内心感嘆の声をあげる。千歳は扇子を閉じただけだったが、見ている者は違った。流れる動作で閉じるその姿は清流のような爽やかさを醸しだしていたのだ。

「私も千歳君みたいに女子力向上のために扇子を持とうかな」

「僕は女子力向上のために扇子を持ってるんではないんですけど……よかったら要ります?」

 千歳は鞄を開くと、そこには扇子が数本入っていた。

「うわ、沢山ある」

「嗜みですから」

 驚きの声をあげる御影と何故か自慢気に頷く千歳であった。

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