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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
37/129

37話 にゃーと言えばにゃー

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

 そこに竜崎緋毬は机に顔をのせて呟いた。

「あーーあついぃぃぃぃ」

 季節は春が過ぎ、初夏が巡った頃。

 気温は30度を超え、緋毬は額に玉の汗をかいていた。

「暑いねぇ」

 緋毬の声に反応したのは神代千歳だった。

「暑いね、じゃねぇよ。冷房つけろよ、冷房を」

 天井に備え付けてある冷房機を指さしながら緋毬は吠える。

「僕に言われても……」

 冷房の使用期間が決まっており、来週にならないと稼働させられないのだ。

「くそぅ、一人涼しそうな顔しやがって」

 緋毬は憎々しげに千歳をジト目で睨む。

 千歳は汗一つかかずに爽やかな笑顔を浮かべている。

「はは、これでも神代流の後継者だからね」

 千歳は神代流という武術の正統後継者なのだ。

「理由になってねぇよ、それ……」

 緋毬は力なくぼやく。ツッコミに力がないのは暑さのせいなのか。

「はいはい、扇いであげるから」

 スイカの絵が描かれた扇子を取り出し、緋毬を扇ぐ千歳。

「ああ”~」

 涼しい風が届き、緋毬はとろけそうな声をだす。

「猫の伸びみたいな声だね」

 扇ぎながらそんな感想を言う千歳。

「ずっと扇いでくれるならわたしは猫になろう。にゃー」

 千歳の扇ぐ速度が少し速くなる。

「にゃーにゃー」

 もっと速くなる。

「にゃーにゃーにゃー」

 更に速くなる。

「って風がすげぇよ」

 緋毬の髪が縦横無尽に動き始めた時、ついに緋毬が抗議の声をあげた。

「はは、ごめん。ちょっと楽しかったから」

 笑いながら千歳は扇子を元の速度に戻す。

「それでいい。それで」

 髪を戻し、緋毬はまた机に顔をのせてだらけ始める。

「うん」

「極楽、極楽」

「人間に戻った……残念」

「千歳は猫語が好きなのか。にゃー」

「緋毬が言うと可愛いからね」

「格好いいと言え、格好いいと………にゃー」

 頬を少し赤く染めながら緋毬は抗議の声をあげる。

「ごめん。ごめん」

 緋毬の最後の語尾は消え入りそうに小さなことに笑いをこらえながら、千歳は謝罪する。なんで猫語が格好いいかはわからないが触れないでおく。緋毬も適当に言っただけだろう。

「けど、緋毬は普段気を張ってるからね。こういうだらけてるのは可愛いと思う」

「千歳は惜しげも無く恥ずかしいことを言うな」

 緋毬は静かに顔をあげた。だらけていては千歳の相手を出来ないからだ。

「緋毬だからかな。他の人にはこんなこと言えないよ」

 千歳は首をかしげながら返答する。自分でも何故言えたかわからないが、きっとそういう理由なのだろう。

「でた。たらしの手だ」

「たらしって酷いよ」

「君だけだとか、他の人には言わないって使う奴は絶対他の人にも同じ言葉を言うとテレビで言ってた」

「僕は違うからね」

「その言葉を受けて、僕は違うと否定する奴は増々怪しいとテレビで言ってた。そいつがたらしだと」

「僕はどうやって否定すればいいの!?」

 千歳が頭を抱えて呻く。

「それに、アリアが愚痴ってたぞ。うちの千歳は幼女と見れば飴をあげて、セルミナには餌付けをして飼いならし、みーには弟のように可愛がられてるって」

「ごめん。最初だけは命をかけて否定させて! やった覚え無いんですけど」

「あれ? これ親父の言葉だっけ?」

「緋毬に何吹き込んでるの、あの人!?」

 居ても居なくてもウザいことをする。それが緋毬の父、竜崎碧人だ!


この回くらいからサブタイトルのつけ方変更しようかと。1章は実験的に味気無いタイトルづけをしてきましたが、作者的に楽しくないと結論が出ました。

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