35話 おでん屋
今日も今日とて晩御飯。
場所はおでん屋。
そこに碧人と千歳がおでんをつついていた。
「あ、卵と大根と牛すじお願いします」
「そのタネをとられちゃあこちらは翼をもがれたも同然ではないか!! 残されたタネで僕に何を頼めっていうんだ!」
「あの、注文するごとに反応するのやめてくれますか? 食べたかったら同じの頼めばいいじゃないですか?」
「千歳くん、いいかい。ある軍師が言ってたんだが、敵と同じもの頼んじゃおでん軍師の男がすたるぜってね」
「面倒な生き物ですね、それ」
「ウン、僕もそう思う。大将、大根とごぼ天お願い」
「結局、同じの頼むのですね」
「僕はおでん軍師にはなれないみたいだ。食欲に勝てなかった」
おでんをつつきお腹が満たされた頃、会話が中心となっていく。
「ね、千歳くん。聞いてるよぉ。高校でクラブを作ってハーレムを作ってるって」
「ぶっ………何を言ってるんですか!?」
「いやいや、恥ずかしがることはないよ。男の夢だからね、ハーレムは」
「作ってません。部活動です、普通の!」
「男子が千歳くん一人なのに?」
「偶然です。偶然!」
「またまた~」
千歳が必至になって否定しても、碧人は笑って受け流す。
「そこで相談があるんだ」
だが、そこで一転。
碧人は今までの態度を変え真面目な顔つきになった。
「ど、どうしたんですか?」
その態度に押され千歳はゴクリと喉を鳴らす。
そして、碧人は口を開いた。
「千歳くんの制服貸してくれないか?」
「あ、最後に大根お願いします」
「おう」
「ちょっっと!? 何で無視するの!?」
「いや、だって碧人さんが変なこと言うから……」
大根を口に運びながら千歳は至極当然なことを言う。
「全然変じゃないよ。僕が千歳くんの制服を着て学校に潜り込みたいだけだよ!」
「一から十まで変ですよ! バレるでしょ、それ!!」
「変装した千歳だよって言うから大丈夫!」
「全然大丈夫じゃないですよ! 僕をどういうキャラと思ってるんですか!?」
「くそぅ、無理か」
「当たり前ですよ」
「騙せるのはけんぽう部の人だけなのかッ!」
「一番騙せない面々ですよ! 娘を欺けると思ってるんですか!」
「僕は女生徒のパンツを覗くことは出来ないのか……」
「潜入してすることがそれですか! 変態だ、この人!」
「千歳くん、覚えておきなさい。年齢を重ねるごとに若い子のパンツを覗くことが出来なくなっていくんだよ」
「真面目な顔で何を言ってるんですか、この人。普通にどの年代でも犯罪行為ですからね」
「僕は千歳くんのようには成れないのかッ!」
「全然、そんなことしてないんですけど!?」
「僕も千歳くんみたいに皆に愛されたかった……」
「愛される?」
変態的な会話の中で突然出てきた愛されるという言葉に千歳は目を瞬かせる。
「うちの緋毬がけんぽう部って部活を作ったじゃん。僕は緋毬に聞いたんだ。何でそんな部活を作ったのか」
碧人は落ち着きを取り戻り、静かに語りだす。
「だってそうじゃないか。緋毬は特にやりたい事も無い。だから、けんぽう部の活動は決まってない。手持ち無沙汰で暇を持て余してる。おかしいじゃないか。何かやりたいことがあるから部活を作るはずだよ」
「でも、緋毬はやる気がでないから、そのやる気を出すために部活を作るって言ってましたよ」
「それは、方便。言い訳だね。だから、僕は緋毬に聞いたんだ。ねぇ、ねぇ、何で部活を作ったのねぇ、教えてよ。何もやましいことなければ言えるはずだよ、ねぇって」
「ウザっ、その聞き方ウザいですよ!」
「うん。ウザいって緋毬にも蹴られたよ。でも、ね。緋毬はちゃんと教えてくれたんだ。君のためだってね」
「え……」
「つまり、けんぽう部は緋毬が千歳くんのために作った部活なのさ」




