32話 セルミナと朝ごはん
今日も今日とて朝が来る。
場所は千歳の家。
そこに、アリアとセルミナと千歳がいた。
「オーッホッホ、ついにこの時が来たのですわ!」
高らかに声をあげるはセルミナ。
「そんなに嬉しいのかな?」
上機嫌なセルミナのテンションに戸惑いをあげるは千歳。
「当たり前ですわ。夕食、昼食と千歳の食事をご馳走になっているのに、朝食だけまだ食べてなかったのです。片手落ちですわ、そんなの。そう、画竜点睛を欠くというやつですわ!」
「どうしましょう千歳様。セルミナ様の言ってることが理解不明なのに意味がわかってしまうのです。アリアは壊れてしまったのでしょうか」
無表情で実験動物を観察するようにセルミナを見つめるはアリア。
「さぁ、早く朝食を持ってくるのです、千歳」
アリアの態度に気にせずにセルミナはピンと指を立てながら千歳に対して言う。
「ははは、喜んで貰えて嬉しいよ」
喜ばれるのは嬉しい。
出会った頃では想像もつかない様子のセルミナに千歳は笑う。
「もうすぐで千歳の料理が食べられなくなりそうですのよ! 折角の機会を失いたくありませんわ」
セルミナが餌付けされているのは財布を落としたからである。
出会ってからもうすぐで一ヶ月が経とうとしていた。
セルミナの口座にお金が振り込まれるのである。そうなるとこの日々も終わる。
だからこそ、セルミナは拘ったのだ。
「セルミナさんさえ良ければまた食べに来てよ」
「いいのですの?」
きょとんとした態度でセルミナは首を傾げる。
お金が振り込まれれば終わると思ったのだ。
「うん」
千歳はにこやかに笑う。
「ちょっと待って下さい。どうせなら部活動に取り入れませんか?」
アリアはそこでストップをかけた。
「なんで部活動なの?」
意味がわからず、千歳は問う。
「アリアは考えました。部活動に料理実習を入れたらどうだろうと。何もせず遊ぶだけではなく、何かイベントを入れてメリハリをつけるべきかと」
神妙な態度でウンウンと頷くアリア。
「まぁ、いいけど。いや、いいのかな?」
「場所は家庭科室がありますし。緋毬様も文句は言わないでしょう」
「わたくしとしても、千歳の料理を食べる機会が増えるのなら文句はありませんわ」
「毎日同じことばっかりしていては視聴者は飽きるというものです。それではアリアの懐はあたたまりません!」
「それが言いたかったの!?」
「本音がでましたわ!」
「おや、セルミナ様は朝食が要らないご様子ですか」
「千歳。わたくしはアリアの意見に賛成しますわ!」
「買収された! 僕が朝食作ったのにと言いたい所だけど、今回の朝食はアリアが頑張って作ったから言えないね」
「千歳じゃなく、アリアが?」
鳩が豆鉄砲を食ったようにセルミナはアリアに対して言う。
「なんですか、その態度は」
アリアは無表情ながらも内心では不快感を感じているようだ。
「いえ、別に問題はないですわ。ええ、ちょっと美味しいか疑問を感じてしまっただけで」
「凄い失礼ですね、この吸血鬼様は」
「セルミナさん、アリアは凄い頑張ったんだよ! セルミナさんに美味しいと言ってもらえるように」
「千歳様っ!」
思わず千歳はアリアの事情をばらしてしまう。
言って欲しくなかったのかアリアは声を荒げる。
「本当ですの?」
セルミナは問いかける。アリアはバツが悪そうに答えた。
「この前の点数は千歳様にお仕えするメイドロボとして看過出来ませんからね。最初出会った時は謙遜しましたが、アリアはハイスペックなのです。そこらのメイドロボよりも上手く作れます。むしろ、そこらのプロより美味しいはずです」
「この前のことがアリアを傷つけてしまったのですね。謝りますわ」
「いえ、謝罪より今回の料理を食べて恐れおののくことを期待します」
「ええ、期待しますわ。目指せ65点超えですわ」
「朝食前に表に出てくださいセルミナ様、決闘です」
セルミナさんのお陰てアリアの感情は豊かになったなぁと思う千歳であった。




