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けんぽう部  作者: 九重 遥
春から夏へ
31/129

31話 アリアの暇潰し

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

 そこでメイドロボことアリアは給仕に勤しんでいた。

 勉強をする御影にお菓子と紅茶を、遊んでいる緋毬にお菓子と紅茶を、漫画を読んでいるセルミナに水をと。

「なんか、セルミナさんだけ扱いがひどくない?」

「何を与えても無反応ですからね。酷い時はお菓子を食べた記憶さえないです」

 最初は皆と同じようにお菓子と紅茶を振舞っていたが、セルミナは漫画に集中しており振る舞われたお菓子には気がつかない。反応がないのだ。

 だが、無意識的には気がついてるのか、漫画を読みながらお菓子や紅茶を手にとっている。しかし、自分が食べたという意識は希薄で、漫画を読み終わった後にアリアにおやつを要求する有り様。

 そのことを思い返しながらアリアは言う。

「アリアは気がつきました。漫画を読んでいる時は餌を与えない方がよいと」

「餌って……」

 セルミナは普段食事をする時は、良いリアクションをするのだ。アリアはそれが秘かに好きなのに、漫画を読んでいる時はそのリアクションを見れないのだ。

「だから、セルミナ様には漫画を読み終わった時に」

 そう言ってアリアは笑った。その反応に千歳は目を瞬かせる。

「しかし、アリア。ありがてーが別に自分の好きなことをやっていいんだぞ」

 ゲームを中断し、緋毬はアリアへと向く。

「私も同意見だね。お茶の用意をして貰って助かるがアリア君は千歳君のメイドロボであって私達のメイドロボではない。それに身分的には同じ学生だからね」

 御影も勉強を中断し、話に加わる。

「皆様ありがとうございます。しかし、メイドロボであるアリアはメイドの仕事を従事するのが使命なのです。千歳様に絶対服従の日々を強いられてますが、それは変わりません」

「そうか……」

「ちょっと待って、僕が悪者になってない? なんかおかしくない?」

 慌てる千歳をスルーして、アリアは話を続ける。

「それにアリアは皆様の給仕をするのが楽しいのです」

「楽しい?」

 楽しいという理由がわからず御影は首を捻る。

「ええ。皆様のことを観察して、皆様のことをより理解出来ます。それはアリアに取って良いことだと考えております」

「そう言われると照れるね」

 観察とは硬質な言葉だが、アリアは人間ではなくメイドロボなのだ。人間により近づくため部員を観察することを否定することを出来ない。

「ええ。それに、皆様の行動は研究所の職員に評判です」

「研究所!?」

 驚愕の声をあげる御影。

 思ってもみなかった言葉が出たからだ。

「皆様の行動を記録し、研究所で上映会をしています。生の女子校生の行為が見られると反応は上々です。勉強しながら物憂げな表情をする御影様。プロに勝るとも劣らないゲームテクを見せる緋毬様。なんか漫画を読んでる西洋人。どれも人気があります」

「なんかいかがわしい匂いがするよ!」

「それに、緋毬とセルミナさんの扱いおかしくない?」

「ちなみに、上映会は代金を徴収してますからアリアの懐は常に温かいです」

「増々疑いが濃くなった!」

 混乱する御影にアリアは無表情でサムズ・アップで答える。

「大丈夫です。顔はモザイクかけますから」

「いかがわしさアップだよ!」

「音声も一部ピー音でお送りしています」

「ピー音?」

 意味がわからなかったのか、千歳が首を捻る。

「そうですね、例えば千歳様の台詞で言うと……『緋毬、ちょっとピーしてよ!』等ですね」

「健全なはずなのに凄いいかがわしくなってる!?」

「で……本当の所はどうなんだ?」

 それまで黙っていた緋毬が声をあげる。

 緋毬の発言を受け、アリアは粛々とした態度で答える。

「上映会に参加することが出来るのは女性のみとしております」

「なんだ………よかった」

 ほっとする御影。

「碧人様が緋毬様の動画を欲しがっておりましたが、殴って沈めておきました」

「よくやった」

「ちなみに、千歳様の動画は男性にも視聴可能で大人気です」

「なんで!? 怖いよ!」

「研究所の奴らは変態ばっかだからな……」

 緋毬は苦虫を噛み潰した表情でそう言った。

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