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けんぽう部  作者: 九重 遥
春から夏へ
30/129

30話 セルミナの暇潰し

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

 そこでセルミナは熱心に漫画を読んでいた。

「大丈夫みたいだね」

「大丈夫っていうかハマってないか、あいつ?」

 セルミナとは離れた一角で小声で話し合う緋毬と千歳。

 セルミナが部活に来た時、文句を言ったのだ。

「わたくし、暇をつぶせと言われても困りますわ。何を用意すればわからないですもの」

 なら、自分で探せやとなる所だが、この物理実験室には本棚がある。

 無論、緋毬と御影が用意した本棚だが。

 その本棚には最初何も入ってなかった。

 だが、緋毬や御影や千歳、それにアリアの研究所職員が置き場に困った本を寄贈したのだ。

 その種類は豊富で、漫画、ライトノベル、小説、実用書と色々揃っている。

 そこで。暇潰しに困ったセルミナに緋毬が漫画をすすめたのだ。

 漫画なら読書よりかたっ苦しくなく娯楽要素満載だ。

 だが、セルミナは最初不満の声をあげた。

「漫画なんて子どもの読み物ですわ!」

 そう言ったのだ。

 詳しく聞いてみると、セルミナはこれまで漫画を読んだことがないとのこと。

 なら、物は試しだ。

 読んでみてから文句を言えと漫画を無理矢理渡したのだ。

「なんですの、もう……」

 と言ったのは最初だけ。

 ものの5分ですっかり集中して漫画を読んでいる。

 時に笑い、時に涙ぐむ。

 そして、一冊読み終わると次の巻へ。

「セルミナ様。お茶とお茶菓子です」

 給仕をしていたアリアが机の上に日本茶とお饅頭を置く。

「ん…………」

 聞いているのか聞いていないのか、アリアに生返事を返すセルミナ。

 目は漫画に焦点をあわしたままで動かさない。

 手はページを捲るのみ。

「凄い集中力だね」

「子どもの読み物ってどこいったんだ。めっちゃハマってんぞ、あいつ」

「しかし、腹ペコ魔神のセルミナ様が食事にも手をつけずに集中するとは……」

 アリアの中ではセルミナは腹ペコ魔神と認識されていた。

 そのセルミナのページを捲る手が止まる。今まで一定のペースだったそれが乱れたのだ。

「あ………」

「お………」

「まぁ……」

 セルミナは片手に漫画を持ちながら、饅頭を食べ始めたのだ。饅頭を一口食べ、ズズズと日本茶を飲む。しかし、目は漫画から一切離さない。

「凄い集中力だね」

「ある意味すげーな」

「流石、セルミナ様。射程内の食べ物は逃さないのですね」

 ウンウンと頷く三者。

 そして、経つこと一時間。

 セルミナは漫画を読み、時たまお茶を飲み、饅頭を食べ、読みふけっていた。

「凄い量のお饅頭食べたね」

「出したら出しただけ食べやがったからな」

「流石です。セルミナ様」

 その時、セルミナは読んでいた漫画を机に置いた。

 ついに読み終わったのだった。

「お、面白かったですわぁぁぁ」

「良かったな」

「緋毬。さっきの言葉は訂正しますわ。漫画は面白いものです! 大人が読んでも楽しいものですわ!」

「おぅ。それは良かった」

 セルミナの暇潰し道具が出来て何より。

「ぶわっとなって、ぐいっとなってめまぐるしい展開で最後は余韻を残す終わり方でしたの!」

「すげー。漫画の感想言ってるみたいだが、全然意味が理解出来ない」

「皆さんも読めばわかりますわ、この漫画の素晴らしさが!」

「わたしが持ってきたやつだからな、それ」

「決めました。わたくし、水泳部に入部して全国を目指しますわ!そしてライバルからヒロインを守りますわ!」

「影響受けすぎだ!」

 漫画に影響され、水泳部に入部を決意したセルミナ。漫画の影響を解くには時間がかかった。

セルミナはすぐ漫画の影響を受けますが一話で影響が抜ける予定。


次回も3話更新。

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