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けんぽう部  作者: 九重 遥
春から夏へ
28/129

28話 緋毬の暇潰し

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

 PCを前に緋毬は忙しそうにしていた。

 せわしなくキーボードを叩き、マウスを動かす。ヘッドセットというマイクとヘッドホンをセットした装備で耳と口を働かせる。

「なんか凄いね」

 その光景を見ながら千歳は感想を述べる。

「普通だ。普通」

 千歳の一言に緋毬は言い返す。目線はモニターのまま。

「FPSってやつだよね?」

「ああ」

 FPSというのは主人公の視点、つまり一人称視点でゲーム内を移動するゲームなのだ。主に銃器を扱うシューティング系ゲームと言ったらわかりやすいのだろうか。時に歩兵として戦争に参加し武勲をあげたり、ゾンビが蔓延った世界でゾンビ殺しに熱中するゲームなのである。

「傍から見たら物々しいよ」

 ヘッドセットもそうなのだが、使っているマウスやキーボードが一般の物と違うのだ。

 マウスはゲーミングマウスというゲームに特化したマウスである。一般的なマウスより精緻な動きができ、長時間使用しても疲れにくい。特定の操作を割り当てれる様に複数のボタンがマウスに付属している。

 キーボードはゲーミングキーボードと呼ばれ、複数のキーを同時に押しても反応し、ゲーミングマウス同様に長時間使用しても疲れない。そして、キータッチの感触の良さが特徴的だ。

だが、お値段は一般的な物より跳ね上がる。物によっては福沢諭吉一人では無理なのだ。

「戦争は武器が肝心だからな。そこに金をかけれない奴は最強にはなれんのだ」

 相変わらずゲームに集中したまま緋毬は千歳に説明する。

「はぁ、そういうものなの?」

「ああ。武器の差がそのまま勝敗を分かつ場合がある」

 ゲームをしながら、千歳と会話するのは異常なのだが、FPSをやらない千歳にはその異様さがわからない。

「でも、そこら辺は腕でカバーできないの? 弘法は筆を選ばずって感じで」

「騙されるな、千歳。弘法っ奴は人一倍筆に拘ってたらしいぞ。だから、そのその慣用句は都合の良いように作られた言葉のはずだ」 

「そ、そうなんだ……」

 ちょっと引き気味に千歳が応じる。

 その態度が気に入らなかったのか、緋毬は追いかけの言葉をかける。

「それに考えて見ろ。アスリートは人一倍道具に金をかけるだろ。良い成績を取ろうとしたらいい装備が必要なんだよ。確かに、プロがイマイチな道具を使ってもいい成績を取れるだろうが、自己ベストを越えようと思ったら、やはり最高の装備が必要になるんだ」

「そう言われたら納得出来るような」

「って畜生! また負けた」

 マウスを投げ出し、緋毬は降参と天井を仰ぎ見る。

「って僕が話しかけせい? ごめんね」

「嫌、それは関係ねぇ。こいつが強すぎるんだ、こいつが」

 緋毬はモニターを指さす。指さした先にはとあるプレイヤーの名前があった。

「頑張るパパさん@仕事中?」

「ああ。こいつにいっつも負けるんだ。勝てた試しがねぇ」

「あれ?」

 千歳は何かに気づいて戸惑いの声をあげるが、緋毬は気がつかない。そのまま、そのプレイヤーについて説明する。

「頑張るパパさんとかフザけた名前だが、腕はピカイチだ。FPSだけじゃなく他のゲームでも強者として君臨してやがる。一体どんなやつなんだ」

「結構見てると思うよ」

 千歳は小さな声で言った。その声量の小ささゆえ緋毬は気がつかない。

「普段は頑張るパパさんという名前なんだが、@以下の通り仕事をサボって遊んでやがる。リストラになるぞ、こいつ」

「どうだろ? 解任されるのかなぁ」

「いつか、こいつを倒してギャフンと言わせるのが目標だ!」

「よく倒してるよ……」

 そこで初めて緋毬は千歳の態度に気がつく。

「どうした、千歳? 苦虫を噛み潰した顔をして」

「あのね、そのね、緋毬…………その……頑張るパパさんって言う人、多分緋毬のお父さんだと思う」

「はぃ!?」

 頑張るパパさんは緋毬の父が使ってるHNの一つなのだ。千歳はそれを知っていた。

「よし………あいつを殺そう。その方が地球のためだ」

「駄目だ。駄目だよ、緋毬!」

「家族会議かけても結果は同じだぞ、きっと」

「そうだけど、きっとそうなりそうだけど!?」

 家族内でも地位が低い男、それが緋毬の父、竜崎碧人だ!

1話の伏線回収の話。

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