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けんぽう部  作者: 九重 遥
春から夏へ
25/129

25話 暇潰し

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

 そこに緋毬と御影と千歳、それにアリアがいた。セルミナは用事があり欠席。

「…………暇だね」

「だな」

「そうだね」

 御影がボソリと言い、緋毬と千歳が同意の声をあげた。

 部活を作ったはいいが、何も目的を持ってない組織。

 自由といえば聞こえはいいが、実際は何もすることがない。

「各自、暇潰し道具を持ってくるか」

「暇潰し道具?」

 けんぽう部の部長である緋毬は提案する。

 その提案にけんぽう部の平部員である千歳は首をひねる。

「ああ。小説でもいいし、ゲームでもいい。各々好き勝手に遊べるものを持ってきてくれ」

「わかった」

「緋毬様の仰せのままに。セルミナ様には後で連絡しておきます」

「おう、頼む」

 メンバーが同意し、この議題は可決された。

「しかし、どうすっかなー?」

 だが、緋毬は提案が通ったのに浮かない顔だ。

「どうしたの、緋毬?」

「いや、わたしは何を持ってこようかなと悩んでいるんだ」

「はぁ」

 無趣味であるならわかるが、緋毬は多趣味である。暇潰し道具なら沢山持っているだろう。千歳はそう考えていたので、思わず投げやりな返事になる。

「とりあえずパソコンか。テレビはうるさいから微妙だな。あと本棚もいるか」

「…………なんというか、スケールがでっかいね」

 逆に多趣味だから悩んでいたのだ。千歳びっくり。

「みー、色々持ってこようと思ってるんだが、業者を入れていいのか」

「僕は何も聞いてない。僕は何も聞いてない」

「別に構わないよ。顧問の許可は取れている。ただ、生徒会長にバレると厄介だから日時の指定をして欲しいね」

「わかった。そこら辺は御影に任す。御影も千歳もアリアも必要な物あれば言えよ。大きい荷物は一片に運んだ方が楽だ」

「ありがと。思いついたら言うよ」

「僕は何も知らない。何も関わってないんだ」

 千歳は悪事に関わるのは嫌なのか耳を塞ぎ知らないふりをする。そして、その姿を見て女性陣はニンマリと笑った。

「では、緋毬様。できればシステムキッチンを導入して欲しいですが」  

「ふむ。ならばソファーを入れるようか。食事する場所がこれでは興醒めだ」

 ポンポンと物理実験室備え付けの硬い木の椅子を叩きながら御影は言った。 

「なら、照明も一新しようぜ。なんか親父の会社の関係でシャンデリアが余ったとか聞いた覚えがあるぞ」

「もう物理実験室の面影ないよね、それ! クラブ活動の域超えすぎだよっ!」

 千歳はこらえきれずに、ついにツッコンだ。

 知らぬことをやめたのだ。これで共犯者。

「冗談だよ。千歳君が可愛くてね、つい」

「千歳様の慌てふためく様が見たくて、つい」

「なんか一人だけ善人ぶろうとして、つい」

 御影が微笑み、アリアが無表情で、緋毬が尊大な態度で謝った。

「で、どこまでが本当なの?」

 はぁとため息とともに現実を受け入れる千歳。

「システムキッチン云々からは嘘だ。本棚とかは本当に入れるぞ」

「僕らが卒業する頃には元に戻そうね」

「わかってる」

「さてと、生徒会長に秘密にしないといけないからね。作戦を立てないといけないね」

 大変だと言いながらも御影の顔には獲物を見つけた虎のような笑みがあった。

「御影さん嬉しそうですね」

「生徒会長をライバル視してるからなぁ、みーは」

「ククッ……架空の用事、妨害部隊の作成。やることは沢山ある。腕がなるね」

「こ、怖い……」

 御影の態度に思わず怯える千歳。

 すると、自己の世界に陥っていた御影が急に千歳の方向へ向いた。

「千歳君、武術が使えるよね。ちょっと頼みたいことが……」

「嫌です!」

「まだ何も話してないのに断られた! ちょ、ちょっとは聞いてくれないか」

「嫌です!」

 大事な場面でNOと言えることが出来る人間。それが千歳だ。 

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