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けんぽう部  作者: 九重 遥
春から夏へ
22/129

22話 御影とお弁当

 場所はとある空き教室。

 場所は昼休み。

 そこに御影と千歳がいた。

「で、こ、こんな場所にわ、私を呼び出してど、どうするんだい?」

 二人のいる場所はと使われなくなった階のとある空き教室。その階にいる人は御影と千歳だけだ。何が起こっても助けは来ない。

 御影は震える体を腕で抱き、千歳に問いかける。

 弱々しく問いかける御影に、千歳はため息ひとつ。

「わかっててやってるでしょう、御影さん……」

「まぁね。様式美というやつさ」

「いらないと思うけどなぁ」

 御影は笑い、千歳はぼやく。

 そして両者は机を対面にくっつけて、千歳は重箱を机に置いた。

「よし、では食べようか」

「はい、いただきましょう」

 両者は昼ごはんを食べに来たのだった。

「しかし、二人きりとは気恥ずかしいね」

「ですね。皆で一緒に食べればよかったのに」

 このランチは緋毬に言われたのだ。部員間の仲を良くするために二人っきりで過ごす。ついでに記すと、同時刻別の場所では緋毬とセルミナが一緒にランチをしている。

「では、どうぞ」

 両者の間。そこに開かれた2段の重箱のお弁当。

 二人分の弁当だから2段重ねなのだ。

 中身は一緒。色とりどりのサンドイッチ。そして、サイドメニューなのか唐揚げやウインナーが入っていた。

「おぉ!凄いじゃないか」

 感嘆の声をあげる御影。

「手の凝った料理はないですけどね」

 御影に褒められて気恥ずかしそうに千歳は言う。

「ん? このお弁当はアリア君が作ったのではないのかい?」

 千歳にはアリアというメイドロボがいる。家事や料理はお手の物のはずだ。だから、このお弁当がアリアが作ったのだと御影は思ったのだ。

「御影さんに食べて欲しくて全部自分で作りました」

 最初、千歳はアリアに弁当を任そうとしたが、緋毬に止められたのだ。せっかく初めてのお弁当なのだから、千歳が作れと。

 だがそれを言わず、邪気の無い笑顔で御影に微笑む。緋毬に言われたからではなく、自分でもその方がいいと思ったからだ。

相手が喜んで欲しくて作ったという笑顔を見せられ、御影は戦慄する。 

「くっ、女子力とはこういう物なのか!?」

「女子力って何!? 僕は男ですよ!」

「千歳君のお陰で女子力というものがわかったような気がするよ」

「いや、僕には全然理解できないのですが……」

 御影と千歳はサンドイッチを食べながら話をする。サンドイッチの美味しさに御影はまた千歳の女子力に驚かされた。

 だが一番驚かされたのは味ではなかった。

「千歳君、君はいつから起きてこれを作ったのだい?」

 御影は2つ目のタマゴサンドを食べながら、重箱に目線を向け千歳に問いかける。

 重箱に入ったサンドイッチは色とりどりだ。

 カツサンド、ツナサンド、タマゴサンド、カツサンド、アボカドサンド等々種類豊富だ。

 そして、同じタマゴサンドでも味付けは変えてある。胡椒を多めに入れてもの、卵の中にトマトを刻み爽やかな味わいにしたもの、ベーコンやチーズを入れカルボナーラ風にしたもの。重箱に入ってあるサンドイッチは一つとして同じものはない。

「そんなにですよ」

 千歳は曖昧に答える。だが、御影は首を振って否定する。

「これを作るのは凄い大変だったのだろう」

 得てして単調になりやすいサンドイッチを、手を変え品を変え飽きさせない工夫をしている。それは気遣いの心。人を楽しませる茶目っ気。千歳は謙遜したが、御影も料理の心得がある人間。これを作るのにどれほどの手間をかけ、御影の為に心を砕いたのかがわかる。

 もし自分に恋人が出来た時、これほどのお弁当を作れるか。

「君の女子力は私を超えたのかもしれない……」

「褒めてもらってなんですけど、全然嬉しくないです」

 千歳はげんなりするが、御影は千歳を無視して自分の胸に手を当てて悩む。

 悩んだ結果。

「やっぱり千歳君も胸があるほうが女性らしいと思うかい?」

 違う悩みに到達してしまった。

「はいぃぃぃ!?」

「大事なことなんだ! 答えてくれ!」

 今までの話はどこへやら。御影と千歳のランチはこうして過ぎていく。 

次回

『身体測定』

『身体測定2』

の2話を予定。

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