22話 御影とお弁当
場所はとある空き教室。
場所は昼休み。
そこに御影と千歳がいた。
「で、こ、こんな場所にわ、私を呼び出してど、どうするんだい?」
二人のいる場所はと使われなくなった階のとある空き教室。その階にいる人は御影と千歳だけだ。何が起こっても助けは来ない。
御影は震える体を腕で抱き、千歳に問いかける。
弱々しく問いかける御影に、千歳はため息ひとつ。
「わかっててやってるでしょう、御影さん……」
「まぁね。様式美というやつさ」
「いらないと思うけどなぁ」
御影は笑い、千歳はぼやく。
そして両者は机を対面にくっつけて、千歳は重箱を机に置いた。
「よし、では食べようか」
「はい、いただきましょう」
両者は昼ごはんを食べに来たのだった。
「しかし、二人きりとは気恥ずかしいね」
「ですね。皆で一緒に食べればよかったのに」
このランチは緋毬に言われたのだ。部員間の仲を良くするために二人っきりで過ごす。ついでに記すと、同時刻別の場所では緋毬とセルミナが一緒にランチをしている。
「では、どうぞ」
両者の間。そこに開かれた2段の重箱のお弁当。
二人分の弁当だから2段重ねなのだ。
中身は一緒。色とりどりのサンドイッチ。そして、サイドメニューなのか唐揚げやウインナーが入っていた。
「おぉ!凄いじゃないか」
感嘆の声をあげる御影。
「手の凝った料理はないですけどね」
御影に褒められて気恥ずかしそうに千歳は言う。
「ん? このお弁当はアリア君が作ったのではないのかい?」
千歳にはアリアというメイドロボがいる。家事や料理はお手の物のはずだ。だから、このお弁当がアリアが作ったのだと御影は思ったのだ。
「御影さんに食べて欲しくて全部自分で作りました」
最初、千歳はアリアに弁当を任そうとしたが、緋毬に止められたのだ。せっかく初めてのお弁当なのだから、千歳が作れと。
だがそれを言わず、邪気の無い笑顔で御影に微笑む。緋毬に言われたからではなく、自分でもその方がいいと思ったからだ。
相手が喜んで欲しくて作ったという笑顔を見せられ、御影は戦慄する。
「くっ、女子力とはこういう物なのか!?」
「女子力って何!? 僕は男ですよ!」
「千歳君のお陰で女子力というものがわかったような気がするよ」
「いや、僕には全然理解できないのですが……」
御影と千歳はサンドイッチを食べながら話をする。サンドイッチの美味しさに御影はまた千歳の女子力に驚かされた。
だが一番驚かされたのは味ではなかった。
「千歳君、君はいつから起きてこれを作ったのだい?」
御影は2つ目のタマゴサンドを食べながら、重箱に目線を向け千歳に問いかける。
重箱に入ったサンドイッチは色とりどりだ。
カツサンド、ツナサンド、タマゴサンド、カツサンド、アボカドサンド等々種類豊富だ。
そして、同じタマゴサンドでも味付けは変えてある。胡椒を多めに入れてもの、卵の中にトマトを刻み爽やかな味わいにしたもの、ベーコンやチーズを入れカルボナーラ風にしたもの。重箱に入ってあるサンドイッチは一つとして同じものはない。
「そんなにですよ」
千歳は曖昧に答える。だが、御影は首を振って否定する。
「これを作るのは凄い大変だったのだろう」
得てして単調になりやすいサンドイッチを、手を変え品を変え飽きさせない工夫をしている。それは気遣いの心。人を楽しませる茶目っ気。千歳は謙遜したが、御影も料理の心得がある人間。これを作るのにどれほどの手間をかけ、御影の為に心を砕いたのかがわかる。
もし自分に恋人が出来た時、これほどのお弁当を作れるか。
「君の女子力は私を超えたのかもしれない……」
「褒めてもらってなんですけど、全然嬉しくないです」
千歳はげんなりするが、御影は千歳を無視して自分の胸に手を当てて悩む。
悩んだ結果。
「やっぱり千歳君も胸があるほうが女性らしいと思うかい?」
違う悩みに到達してしまった。
「はいぃぃぃ!?」
「大事なことなんだ! 答えてくれ!」
今までの話はどこへやら。御影と千歳のランチはこうして過ぎていく。
次回
『身体測定』
『身体測定2』
の2話を予定。




