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けんぽう部  作者: 九重 遥
春から夏へ
20/129

20話 お弁当

 場所は物理実験室。

 時間はお昼休み。

 物理実験室に集いしは二名と一体のメイドロボ。

「はい、今日のお昼ごはんだよ」

 千歳はそう言って、お弁当箱を机の上に置いた。

「うぅ……いつもありがとうございますわ、千歳」

 少し恥ずかしそうに机に置かれたお弁当を受け取るのは金色の髪をドリルもとい螺旋状に巻いている少女セルミナ。

「じゃあ食べようか」

 千歳はそう言ってお弁当の蓋を開く。

 千歳に少し遅れて、セルミナとメイドロボのアリアも自分のお弁当の蓋を開ける。

 蓋を開けると、そこは色彩豊かな世界だった。

 玉子焼きの黄色、唐揚げの茶、トマトハンバーグの赤、ほうれん草の胡麻和えの緑。ご飯は海苔で熊の形に作られていた。一品一品違う色で作られながらも、色彩の暴力にならないよう調和された世界。それが千歳の持ってきたお弁当だった。

「今日も美味しそうですわ!」

 ぱぁっと花を開かせるようにセルミナは顔を綻ばす。

「…………」

 セルミナの感想にも顔色一つ変えず、じーっと彼女を観察するのはアリア。

 その視線に気付かずに、セルミナは卵焼きをパクリと一口。

「お、美味しいですわぁ!」

 そして、口元に手を当てて歓喜に体を揺らす。

 食べるごとにセルミナはこのようなリアクションをするのだ。

「セルミナさんは本当に美味しそうに食べるね」

「本当に美味しいのですもの! 何でこんなに美味しいですの? コンビニや惣菜屋の味と天と地の差がありますわ!」

「まぁ、材料には気を使ってますからね。コンビニと比べられても困ります」

 そこで咳をして、場の空気を変えるアリア。

 目を細め、真剣な表情をしながらセルミナの方へ向く。

「な、何ですの?」

 その剣幕に押されるセルミナ。

「セルミナ様。本日のお弁当で一番美味しかったものは何ですか?」

「美味しかったもの?」

「はい」

 アリアの意図がわからず首をかしげるセルミナ。

 一通りは食べたが、お弁当はまだ全て食べきっていない。今聞くことなのかと思うが、アリアは真剣だ。助けを求めて千歳を見るも、千歳は苦笑するだけでアリアの質問に答えてあげてと言わんばかりだ。

「そうですわね……」

 セルミナは視線をお弁当に向ける。お弁当用に冷めても美味しく味わえるように調整された唐揚げやハンバーグも捨てがたいが……。

「やっぱり、卵焼きですわね。これが一番美味しかったですの。甘さの中に優しさがあって心に染みこんできましたわ。食べるだけで元気が出ますわ」

「ちっ」

「舌打ち!?」

 突然の舌打ちに驚くセルミナ。

「失礼しました。メイドロボの挟持を傷つけられましたので、つい」

「ええ!? ですわ!」

 その場にくぐもった笑い声が聞こえた。

 千歳が抑えきれない笑いが漏れ出たからだ。

 セルミナの顔に更にクエッションマークが。意味がわからない。

「ご、ごめんね。卵焼きは僕が作ったんだ」

「千歳、貴方がこれを?」

「うん」

「実は毎度のお弁当には一品だけ千歳様が作られた料理が入っています」

 表情をいつもの無表情に戻し、アリアは語る。

「それを毎回セルミナ様は的確に当てやがりますのです」

「アリア、貴方怒ってますでしょう?」

「いいえ、毎回ずばりと当てるセルミナ様の舌の精度にアリアは舌を巻く思いです」

「ふふん!それほどではありませんわ」

 髪を手で揺らし、勝ち誇るセルミナ。

 それを無感情に眺めながらアリアは呟く。

「何ですか、甘さの中に優しさ? もうちょっと論理的に話して欲しいです。すごくわかりづらくて参考になりません」

「アリア、実は貴方すごく怒ってますでしょう?」

「くけーーーー!!」

「千歳、アリアが壊れましたわ!?」

 こうして今日も賑やかな昼食タイムが過ぎていく。  

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