19話 神代千歳2
場所は物理実験室。
放課後。
その場所に残るのは緋毬とアリアと千歳のみだった。
「言ってよかったのかなぁ」
何を指してるかを言えば、当然神代流のことだ。現代では相容れない武術。それを皆に言ってよかったのか。軽蔑されないか。
「私が判断したんだ。良いに決まってるだろう」
一切の躊躇なく、緋毬は断言する。
その返事の頼もしさに千歳は笑う。
「うん。ありがとう」
幼なじみしか通じない意志の疎通。それが千歳には嬉しかった。
「しかし、本当に変な奴らを引き込んだなこの部活は……」
緋毬はやれやれと肩をすくめる。
「まさか千歳が吸血鬼というKIWAMONOを連れてくるとは思わなかった」
「セルミナさんは良い人だよ!」
千歳がバンと机を叩き抗議する。それだけは譲れないのだ。
「わかってる。さっきの言葉に負の意味は無い。だから千歳が打ち明けるのを許したんだ。なめんな」
「うぐぅ……ごめんなさい」
抗議したはずが、逆に文句を言われる千歳。涙目だ。
緋毬はそれを冷ややかに見ながら、指折り数える。
「まず、吸血鬼のセルミナ。これは人種が違うだけで普通の人と変わりがないな。強いて言えば腹を空かせて徘徊する程度だ」
「なんかそう聞くと、変に聞こえるね」
「実際、腹ペコキャラですけどね、セルミナ様は」
緋毬が二本目の指を立てる。
「メイドロボのアリア。この世で唯一と言っても過言ではない心を持ったアンドロイド」
「はい、千歳様をマスターとして、絶対服従の日々を強いられています」
「その言い方、僕が悪役になってない!?」
「壊したら弁償だからな、千歳。こちらは弁護士の用意をしてある」
「壊すのが前提なの!? っていうか普通に考えても払えないよね!?」
「千歳様に殴られた部分が……エラーエラー、シュウリガヒツヨウデス」
「殴ってないよね!? わざとらしい片言だし!」
「千歳様の慌てる姿が何よりのご褒美ですので」
アリアは頬を染め、顔に手を当てる。
千歳はそれを釈然としない表情をするが、何も言えないようだ。
そして、緋毬が指を新しく立てる。
「神代流の胡散臭い千歳……」
「前の話題が続いてるよ!? 胡散臭いのは神代流であって僕じゃないよね!?」
「正統後継者が何言ってやがる」
「うぐぅ」
「そして千歳の幼なじみのわたし。千歳と関わらなければどこにでもいる少女だった」
「いや、竜崎エレクトロニクスの令嬢だからね緋毬は。僕関係なしに一般人のカテゴリーに分けれなれないよね」
「うっせ、それでもセレブ分類だろ。KIWAMONOカテゴリーに分けられなかったよ」
「では、緋毬様は千歳様に関わったことを後悔しておられるのですか?」
アリアが緋毬に問う。
緋毬はその質問に鼻で笑った。
「するか。物心ついた時から千歳といるんだぞ。半身みたいなもんだ。嫌とかそういう事情は通り越してる」
「時折、緋毬様と千歳様の絆を羨ましく思うことがあります」
「絆言うな」
「緋毬、照れてる?」
「うっせー、次いくぞ」
そして、最後の五本目。
「みー」
「御影さん?」
緋毬は言い、千歳は首をかしげる。
「みーも隠しているが、一般人とは言えない秘密を持ってる」
緋毬は御影の事情を知ってはいるようだ。
「聞いていいの?」
「本人に聞け。千歳ならいつか話してくれるだろう」
「そっか……」
緋毬がそう言うのなら、そうなんだと千歳は納得する。
「千歳様はそう言いながら、御影様の拉致監禁、そして拷問の計画を立て始めた」
「モノローグ風に捏造しないでくれる!?」
「次回、千歳様刑務所で頑張る」
「捕まってるし!」
次回3話更新。
『お弁当』
『緋毬とセルミナのお弁当』
『御影とお弁当』
の予定です。




